火星に生命はいるか?
19世紀後半、イタリアのミラノ天文台長だったジョバンニ・スキャパレリは、火星の観測中に興味深い発見をしました。
火星表面には黒い線状の模様が広がっていることに気づいたのです。スキャパレリはこれらを「溝」と表現しましたが、後にこの「溝」という言葉が「運河」と拡大解釈されるようになりました。
この誤解から、火星には運河を造るほどの高度な文明を持った「火星人」が存在する可能性が広く議論されるようになりました。
アメリカのパージバル・ローウェルも、この運河の謎に魅了された人々の一人でした。
彼は莫大な財産を投じて天文台を作り、火星の観測に熱心に取り組みました。そして、1895年に著書「火星」を出版し、その中で「火星に広がる多くの溝は、極地から水を運ぶための運河である可能性があり、それらは高度な文明を持つ火星人によって建造されたものである」と述べました。さらに、火星の重力が地球よりも小さいことから、火星人の身長は地球人の3倍程度であると推測しました。
ローウェルは火星人の容姿には触れませんでしたが、この説から着想を得たイギリスのSF作家、H・G・ウェルズがSF小説「宇宙戦争」を発表しました。この物語は火星人が地球に侵略してくるという内容で、挿絵に描かれた火星人の姿はタコのような形態でした。これが後に火星人の代表的なイメージとして定着することになりました。
しかし、20世紀後半に入ると、実際に火星に探査機が送られるようになり、火星人の存在は否定されることとなりました。
火星探査機から送られてきた画像には、タコの姿をした火星人はおろか、生命の痕跡すら確認されませんでした。また、運河と考えられていたものは、単に火星の土の色が異なっているだけであり、水は流れていませんでした。
では火星には生命が存在しないのでしょうか?
火星に生命が存在するかどうか、まだ断定するには早いでしょう。運河はありませんでしたが、火星には水の流れた跡が見つかっていて、極冠には水の氷があります。水があるということは生命の存在に期待が持てます。
現在、火星にいる可能性がある生命体の候補としては、原始的な細菌のような生物が想定されています。下の写真に写っているオレンジ色の小球は、火星由来の隕石とされている隕石ALH84001の中で見つかった炭酸塩鉱物です。隕石に含まれるこれらの炭酸塩鉱物は、36 億年以上前に火星で形成されたと考えられています。その構造と化学的性質から、微生物による影響があった可能性が推測されています。
最近の火星探査では、火星にメタンが存在することが確認されています。火星でのメタンの寿命が数百年と比較的短いことと火星の大気循環が速いことから、メタンの供給源が現在も存在している可能性が高いと考えられます。
メタンの供給源の一つとしてメタン菌のような生物の存在が予想できます。メタン菌は炭素と水素からメタンを生成する微生物で、酸素がなくても生存できます。また有機物も必要とせず光合成も行いません。
このような性質からメタン菌なら火星の環境でも生存可能だと考えられています。