夫婦の飲酒習慣が似ていると寿命が延びる?
研究主任のキラ・バーディット(Kira Birditt)氏は、今回の調査を始めたきっかけについて、アルコール関連の研究でよく指摘される「飲酒パートナーシップ(drinking partnership)」という理論がインスピレーション源になったと話します。
飲酒パートナーシップとは、飲酒パターンが似ている夫婦はそうでない夫婦に比べて、日常における争いが少なく、結婚生活が長続きしやすい傾向があるという理論です。
一方で、この飲酒パターンの類似性が夫婦それぞれの健康、特に寿命にどのような影響を及ぼすかは知られていません。
そこでバーディット氏らは、同大で行われている「健康と退職に関する研究(Health and Retirement Study:HRS)」の一環として、夫婦の飲酒習慣と死亡率との関係性を調べてみました。
本調査では1996年〜2016年にかけて、アメリカ在住の50歳以上の夫婦、計4656組(9312人)を追跡対象としています。
具体的には、夫婦それぞれの飲酒習慣(1週間あたりの飲酒量など)を2年ごとに記録し、調査終了時における死亡率との相関性を調べました。
そしてデータ分析の結果、日常的な飲酒習慣が似ている夫婦は、どちらもお酒を飲まないか、片方が飲んで片方が飲まない、あるいは飲酒量がバラバラな夫婦に比べて、調査期間内での死亡率が有意に低くなっていることが明らかになったのです。
ただ注意すべき点として、飲酒習慣が似ているといっても、夫婦のどちらも大酒飲みであればいいというわけではありません。
バーディット氏は「データ分析では、適度な飲酒量が禁酒や大量の飲酒に比べて、パートナー双方の生存率の上昇につながっていることが示唆されました」と述べています。
また夫婦間の飲酒量の一致は、特に妻の方で生存率の上昇と強く関連していたとのことです。
しかし、なぜ夫婦間で飲酒習慣が一致すると双方の死亡率の低下につながるのでしょうか?
バーディット氏は、最初に言及した「飲酒パートナーシップ」の理論にその原因があるだろうと考えています。
同氏が2016年に、2767組(4864人)の夫婦を対象に「飲酒習慣」と「結婚生活の満足度」に関して分析した「健康と退職に関する研究(HRS)」では、飲酒パートナーシップが示す通り、飲酒習慣がパートナーと似ているほど、結婚生活への満足度が高く、反対に飲酒習慣がパートナー間で大きく異なるほど、相手への不満を感じやすくなることが報告されています。
また、アメリカ心理学会(APA)が2007年に発表した別の研究では、「飲酒パターンの不一致は、夫婦間の満足度の低さに関連しており、それが暴力や結婚生活の破綻につながっている可能性がある」と報告されています。
これらの結果から、飲酒習慣が夫婦のメンタルヘルスに影響を与え、これが健康寿命の増加あるいは減少につながっている可能性が考えられます。ただ、これはメカニズムを説明するものではなく、夫婦間の飲酒習慣が長生きに繋がる明確な仕組みについてはまだ明らかになってはいません。
そのためバーディット氏は「私たちはこの研究をもって、飲酒量を増やしたり、飲み方を変えたりすることを推奨しているわけではない」と話します。
お酒を飲めない人がパートナーとの飲酒習慣を合わせようとして、無理にお酒を飲んだとしても意味はないでしょう。
ただ夫婦間のささやかな習慣の一致が、健康や人生に重要な要因となる可能性はありそうです。
バーディット氏らは今後、夫婦共通の飲酒習慣がどのように健康寿命を延ばしているのか、その詳しいメカニズムを明らかにしたいと考えています。