・ヴァーチャル空間でアインシュタインになりきることで、認知タスクの成績が向上した人たちがいた
・そのグループの特徴は「自尊心が低い」こと
・この技術が、「自尊心の低い子どもたち」のために教育の現場で使用されることが期待される
ヴァーチャル空間においてアインシュタインになりきることで、実際に認知タスクの成績が向上する人がいるようです。
この研究は、脳がいかに柔軟に自分の身体について知覚しているのかを示しており、教育の現場で役立つ技術であるとされています。
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2018.00917/full
ヴァーチャル空間においては、自分の体を別の誰かのように見せることは容易です。そして不思議なことに、人はその「仮の姿」に合わせた行動をとるようになり、それを本当の「自分の体」であるかのように強く錯覚してしまいます。
以前の研究においても、「仮の姿」が実際の態度や行動に変化を起こすことは分かっていました。たとえば、「ヴァーチャル黒人」を体験した「白人」の人々は、黒人に対する無意識的な偏見を減らす傾向があることが分かっています。
そこで、研究者たちは「仮の姿」が「認知能力」にも影響を与えるのかについて知るために、「知性」の代名詞ともされるアルベルト・アインシュタインを「仮の姿」として選択し、「ヴァーチャル・アインシュタイン」が人の認知能力にどのような影響を与えるのかについての研究を行いました。
実験に参加したのは30人の若者。実験の前に彼らには「計画性や問題解決能力を測る認知タスク」、「自尊心を測るタスク」、「老人に対する無意識の偏見を測るタスク」といった3つのタスクをこなしてもらいました。
その後、参加者には全身トラッキングが可能なスーツとVRヘッドセットを着用してもらい、半数が「ヴァーチャル・アインシュタイン」を体験。残りの半数には「ふつうの大人」を体験してもらいました。両グループにはヴァーチャル空間にて「新しい体」でいくつかのエクササイズを行なった後、もう一度「無意識の偏見」と「認知能力」を測るタスクを実施しました。
実験の結果、「自尊心が低い」とされた参加者において、「ふつうの大人」を体験した人と比べて「アインシュタイン」を体験した人の方が、体験後の認知タスクの成績が向上。さらに、「アインシュタイン」を体験した人の「無意識の老人への偏見」は減少傾向にありました。
「偏見」は「他者と自分との違い」に基づいて発生するものです。ここでは自分自身が「老人」と一体化することで、その境界線が薄れたことが考えられます。同様に、「アインシュタイン」といった「知性の塊」と自分が一体化することで、ふだん使われることのなかった精神領域が解き放たれた可能性があります。
そして大事なことは、そういった認知能力の向上は「自尊心の低い」人々のグループにおいてのみ発生したということです。この点について研究者たちは、もともと自信がなかった人たちが「姿を変える」ことで自信をつけた可能性があると考えます。
研究を実施したバルセロナ大学のメル・スレーター教授は、この技術の「教育の場」での活躍を期待しています。つまり、自信のない子どもたちがこれにより、自信をつけて認知タスクの成績を向上させることが考えられるのです。
そのようなことを実現させるためにも、次のステップとして女性などを含めた、さらに大規模な研究が必要となりそうです。
via: medicalxpress / translated & text by なかしー
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