魚の首の骨は1つしかない
脊椎動物では一般に頭蓋骨、首の骨、胸椎(肋骨がはえている骨)の順番で並んでいます。
そのため理論的には、背骨から胸椎以降を差し引けば、残ったものは首の骨であると言えます。
しかしこの単純な引き算の概念はすぐに行き詰りました。
「胸椎=肋骨がはえている骨」という公式が必ずしも成り立たない場合があるからです。
たとえば魚類の研究によく使用されるゼブラフィッシュでは、上の図のように頭蓋骨と肋骨が生えている胸椎の間に、4つの骨があることが知られています。
ですが、たとえば4番目の骨は実は元は胸椎だったものが、進化の過程で肋骨部分が短くなり、結果的に首の骨のように見えているだけ、という可能性もありました。
一番上側の胸椎が何処かがわからなければ、引き算を使って首の骨の個数を決定することはできません。
そこで研究者たちはマウスなどで前半の胸椎の位置を決めていることが知られている遺伝子「Hox6」を、ゼブラフィッシュで壊してみることにしました。
もし胸椎にかかわるHox6の破壊で、この4つの骨に変化が出るものが現れれば、その骨は首の骨のフリをしている胸椎である可能性があるからです。
すると、4個の骨のうち3番目と4番目の骨に異常が発生したことが判明します。
この結果から3番目と4番目の骨はもともとは胸椎であり、首の骨のフリをしているだけであることが示されました。
さらにHox遺伝子を破壊したゼブラフィッシュやメダカを解析した結果、2番目も首の骨とは言い難く、1番目の骨だけが哺乳類などの「首の骨」と類似した性質を持つことが判明しました。
このことからゼブラフィッシュやメダカなどの魚の首の骨は「1個」であることが判明しました。
そのため研究者たちは「脊椎動物は陸上に進出したあと首の骨の数を増加させ、複雑な首の構造を発達させた」と結論しました。
今後も首の骨の進化を追跡することで、生物の適応戦略や環境に対する応答の仕組みを調べたり、再生医療の分野にも応用可能な知識を提供できるようになるでしょう。