ホオジロザメは遺伝的に「3つの派閥」に分かれていた
チームは今回、世界各地の海からホオジロザメの遺伝子サンプルを採取し、何十万もの遺伝子マーカーをふるいにかけて、海域ごとの遺伝子の違いを調べました。
本調査では89匹のホオジロザメの特定の遺伝子部分と、17匹のホオジロザメの全ゲノムを分析しています。
その結果、世界中のホオジロザメは遺伝的に「3つの派閥」に識別できることが判明したのです(下図を参照)。
その3つとは、
・北大西洋と地中海のグループ(図の赤色)
・北太平洋のグループ(図の青色)
・南太平洋とインド洋のグループ(図の黒色)
でした。
各グループは明確に「別種」と呼べるレベルで分岐してはいないものの、違いが十分に見分けられる程度には遺伝的に別物となっていたのです。
では、ホオジロザメはいつ頃から3つの派閥に分かれたのでしょうか?
チームはその謎を解明するために遺伝子分析をさらに押し進めたところ、約10万〜20万年前の氷河時代に分岐していたことが特定されました。
この時代は巨大な氷床が成長することで海面の高さが現在よりも最大150メートルほど低くなっていたことがわかっています。
北極海も外界と分断されて淡水化していたという研究もあり、そのため世界の海も物理的にもいくつかの海域に分断されていたと考えられます。
こうして分断された海域では、海流の動きや海水温も異なっており、そこに属するサメたちは独自に変化していったと推測されるのです。
このことから研究者たちは、ホオジロザメたちは物理的に3つの海域に閉じ込められ、この状態が十数万年も続いたことで遺伝的に3つのグループに変化したのだろうと指摘しました。
しかも今日ではそうした物理的障壁はないにも関わらず、3つの派閥はお互いに交流を絶ったままになっているのです。
まるで”見えない壁”にでも仕切られているように見えます。
それぞれの派閥に属するサメたちはもはや、それぞれの海域の環境に個別に適応してしまって、他の組と交わることが難しくなっているのでしょう。
保護の面で問題もあるが「希望」もある!
以上の結果を受けて、チームは「ホオジロザメの保護が予想以上の困難に直面している」と指摘します。
というのもホオジロザメが遺伝的に単一の種であるならば、どこかの海域の個体群が減っても、別の場所から導入したサメと交配させて繁殖できると考えられていたからです。
ところがホオジロザメが3つの派閥に分かれていて、それぞれのグループ同士は互いに交わらないとなると、この繁殖方法は通用しない可能性があります。
アバディーン大学の生物学者で研究主任のキャサリン・ジョーンズ(Catherine Jones)氏も「長年の間、ある地域から失われたサメは他の地域からの移動と交尾によって埋め合わせられると考えられてきましたが、私たちの研究はそれが現実的でないことを示唆している」と述べています。
その一方で、今回の研究は数少ない「希望」も提示してくれました。
皆さんはすでに勘付かれていたかもしれませんが、上記の色分けされた3つの派閥の中に、一か所だけ「青色と黒色の混じったサメ」がいたのにお気づきでしょうか。
そう、遺伝子分析を進める中で、フロリダ半島のバミューダトライアングルに生息していたサメの遺伝子が「北太平洋」と「南太平洋・インド洋」のハイブリッドであったことが確かられたのです。
なぜこのサメだけハイブリッドになったのかは不明ですが、これは3つの派閥のサメがお互いに交雑しうることを示しています。
この事実はサメの保護と繁殖を進める上で「希望」となるかもしれません。