昏睡から目覚めるには何が必要?
実は昏睡状態から覚醒する仕組みというのは、いまだに解明されていません。
「昏睡患者を確実に目覚めさせる介入方法が確立されていないのもそれが原因である」と米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で昏睡について研究しているマーティン・モンティ(Martin Monti)氏は話します。
その一方でモンティ氏は「覚醒のきっかけとなるいくつかの要素ならわかっている」とも述べています。
そもそも昏睡状態に陥る原因は、患者の脳で発生した損傷や炎症、感染などの異常です。
昏睡患者が目を覚ます前には、損傷した箇所のニューロン(神経細胞)が再生するか、損傷した脳領域の仕事を引き継いで補完できる他の脳ネットワークが拡張することが必要なのです。
そのためまず重要となる要因は、これらの異常を回復させる脳の自己修復機能です。
私たちの脳には自動的に組織を修復する機能が備わっており、傷ついた神経細胞や脳回路を徐々に再生させることができます。
昏睡状態でも脳は完全に機能停止しているわけではなく、遅々とした動きではありますが、ゆっくりと脳組織を回復させていると考えられています。
その自己修復により脳組織の回復がある閾値(いきち)まで、言い換えれば、脳が意識を保てるレベルにまで達したときに、患者が突如として目覚めるのです。
ただ脳は非常に複雑なため、全体的に組織の修復が進んでいても重要な神経ネットワークが上手く繋がらない場合もあるでしょう。これが患者によって目覚めるまでの期間に大きな差を生んでいる可能性があります。
そして昏睡から覚醒に至るには、外部および内部の刺激による脳活動の再活性化も重要だと考えられます。
脳は音や光、触覚といった外部刺激や、ホルモンバランスの変化や代謝機能の回復といった内部刺激によっても影響を受けています。
昏睡患者の脳がこうした刺激を何らかの形で認識し、それがトリガーとなって意識の覚醒を促すことがあるのです。
まとめると、昏睡患者が何の前触れもなく突如として目覚めるのは、脳組織が意識を保てるレベルまで自己修復しており、何らかの刺激によって脳機能が再活性化されたことが要因と考えられます。
一方で、こうした「脳の自己修復」や「刺激による再活性化」はいずれも、患者自身の生命力に頼るか、偶発的な出来事に頼る側面が強くあります。
そこで研究者たちは以前から、人為的に昏睡患者を覚醒させる治療方法の開発を進めてきました。
今現在、その効果が期待できる有望な治療方法をいくつか見てみましょう。