緩やかな構成だった雑賀衆

かつて紀州の地で風に舞うように活躍した雑賀衆――その存在の裏側を覗く「湯河直春起請文(ゆかわなおはる・きしょうもん)」は、なんとも興味深い史料です。
これは簡単にいえば紀州の地元大名の湯河直春が父親から家督を相続した際、父親と同様に雑賀衆と良好な関係を築きたい旨を伝達する文書で、雑賀衆の各地域のリーダーたちの名前や花押がつらつらと記されています。
それだけでなく、雑賀衆を構成する地域やその上下関係、さらには組織内の力学までもが浮かび上がってくるのです。
この文書が特に歴史家の目を引くのは、名高い傭兵隊長・雑賀孫市の名前が史料に初めて登場する点です。
しかし、注目すべきは彼個人よりも、雑賀衆全体の仕組みにあります。
雑賀衆は一つの強固な傭兵団というより、地縁を持つ独立した団体の緩やかな連合体だったのです。
各リーダーは自分の部下を束ねるに留まり、一括して全体を代表する人物はいません。
そのため、起請文も合意を象徴する文書として、全員が同じ紙に名を連ねる形式をとったのです。
とはいえ、この「協力」はどこか気まぐれです。
雑賀衆の自治は合議制に近く、必要なときだけ連携し、いざとなれば独立性を強調して離反することも少なくありませんでした。
このように、雑賀衆はまとまりに欠ける一方、しなやかで自由な力を発揮する独特の組織だったのです。
「湯河直春起請文」は、そんな雑賀衆の魅力と複雑さを、紙一枚に凝縮した不思議な一枚であります。































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