恥ずかしい体は運動のパフォーマンスを低下させる
ベック氏ら研究チームは、147名の参加者(女性100名、男性47名)を対象に、ある課題を与えました。
これは、画面上のターゲット表示にカーソルを合わせるようマウスを素早く操作するタスクです。
標準フェーズでは通常のマウス操作と同じく簡単ですが、適応フェーズでは、カーソルの動きが手の動きから90°回転した状況(例:手を前に動かすとカーソルは右に移動する)に変更しなければいけないため、参加者はその変更にどれだけ適応できるかが試されます。
この課題では、視覚運動適応(visuomotor adaptation)というものを調べています。これは視覚情報と運動制御のズレを修正する能力のことであり、ここから視覚的な環境変化に対する運動の学習能力や実行能力を測ることができます。
そして参加者たちは、「恥ずかしさ」グループと「誇り」グループに分けられ、それぞれのグループは、自分の体に関連して「 恥ずかしさ / 誇り」を感じたエピソードを思い出し、詳しく説明するように求められました。
私たちは、「太っている」「痩せすぎ」などとバカにされたり、逆に「スタイルいいね」と褒められたりすることがあるものですが、参加者たちはその時のエピソードを詳しく思い出すことで、自分の体に対する「恥ずかしい / 誇らしい」気持ちを改めて湧き上がらせたのです。
そして、そのような感情が、運動課題のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすのか調査しました。
その結果、全体的に「恥ずかしさ」グループは、「誇り」グループよりも、パフォーマンスが悪くなりました。
このことは、自分の体を恥ずかしく感じることが、運動課題の学習能力や遂行能力に悪い影響を及ぼすことを示しています。
「恥ずかしい体」は、運動パフォーマンスを低下させるのです。
研究チームはこの結果について、次のように述べています。
「感情が運動能力にも影響を及ぼすというのは興味深いことです。
このような発見は、認知的・学問的課題ではよく観察されますが、運動能力で示されたのは今回が初めてです」
また今回の研究では、恥ずかしさによるパフォーマンス低下の影響は、女性よりも男性の方が強いことも発見しました。
ベック氏は、その原因について、「多くの女性は、既に、自分の体に対して高い羞恥心を持っているため、改めてそのエピソードを思い出すよう指示されても、影響を受けにくかったのかもしれません」と推察しています。
いずれにせよ、この研究と過去の研究からすると、自分の体や外見を恥ずかしく感じる人は、運動でも学問でもパフォーマンスが低下する恐れがあります。
学校生活でも、部活動でも、その他さまざまな場面でも、体型や容姿をいじったりバカにしたりする風潮はあるものです。
場合によっては、保護者や教師、コーチの暴言が、生徒や選手の「恥ずかしさ」を増大させることもあるでしょう。
今回の研究は、それら暴言が、人々の可能性や未来を摘み取るものであることを明らかにしており、排除すべきだと分かります。
さらにスポーツの場面では、選手に「恥ずかしい体」だと感じさせない環境やユニフォームを用意することが、彼らのパフォーマンスを高めるのに役立つ可能性があります。
体型や外見を強調せず、着心地の良いユニフォームを開発するなら、選手たちは自分の体ではなく、競技そのものに集中できるのです。