ショートスリーパーは誰でもなれるのか?
この問題については、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科医であるルイス・プタチェク氏が長年にわたり研究を続けてきました。
その中でプタチェク氏は「ショートスリーパーになれるかどうかは遺伝的な素質が大きい」と結論を出しています。
彼は以前、家族の多くがショートスリーパーだという被験者一家を対象に遺伝子調査をしたところ、「DEC2」と呼ばれる遺伝子に突然変異が起きていることを特定したのです(Science, 2009)。
さらにチームはマウスを対象にDEC2を遺伝子改変した結果、そのマウスは同じ母親から生まれた兄弟たちとは違い、睡眠時間が短くなることを確認しています。
それでいて健康状態に問題は見られませんでした。
詳しく調べてみると、DEC2の遺伝子変異は覚醒を促す「オレキシン」という脳内ホルモンの分泌を増やしていることがわかったのです。
オレキシンが欠乏すると、日中に強い眠気が襲う睡眠障害の一つ「ナルコレプシー」になることが知られています。
この結果は、ショートスリーパーになるかどうかが遺伝的な要因に大きく左右されることを示した成果でした。
その後の研究でも、ショートスリーパーに関連する遺伝子変異が次々と特定されています。
例えば、親子3世代にわたるショートスリーパー家系の被験者からは、「ADRB1」と呼ばれる遺伝子に突然変異が起きていることが判明しました(Neuron, 2019)。
ADRB1の遺伝子変異は睡眠の調節に関与する脳領域で活性化しており、マウスにADRB1変異を持たせると、起きている時間が他のマウスに比べて有意に長くなったのです。
また他にもショートスリーパーの父子ペアにおいて、睡眠・覚醒のサイクル調節に関わる遺伝子「NPSR1」に変異が起きていることも発見されています(NIH, 2014)。
これらの結果から、ショートスリーパーの人たちは特定の遺伝子変異を持つことで、生まれつき短い時間でも高い質の睡眠を取れるようになったと考えられるのです。
そのため、医学的な見解では、普通の人が無理にショートスリーパーになろうとするのは危険であり、たとえ睡眠時間の大幅な短縮に成功しても、それはショートスリーパーの遺伝的素質を元から持っていた可能性が高いからだと考えられます。
ショートスリーパーに憧れて、日々の睡眠時間を1〜2時間削ったとしても、起きている時間に眠気やだるさを感じてしまっては元も子もありませんし、心身の疾患を発症するリスクも高めてしまうだけです。
もしショートスリーパーに挑戦してみて全然合わなければ、1日6時間以上の睡眠は確保した上で、起きている時間の使い方を工夫した方がよいでしょう。