なぜ「動物の体内で臓器を作る」方法が注目されるのか?
臓器移植は、命を救うための重要な選択肢の1つです。
しかし、世界中で臓器の需要と供給の間には大きなギャップがあり、供給は追いついていません。
特に、心臓移植の分野では、年間約4000~5000件の移植が行われている一方で、それ以上の患者が移植を待ち続けています。
このドナー不足は、移植を待つ患者とその家族にとって深刻な問題です。
こうした状況の中で、異種移植、すなわち他種動物の臓器をヒトに移植する方法が研究されています。
![ブタはサイズや機能が人間に近いため異種移植に使用される](https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/002_e-900x600.jpg)
その代表例として、2022年、2023年に米メリーランド大学の医療センターで行われたブタの心臓をヒトに移植する手術が挙げられます。
この手術では、人間からの心臓の移植が適応外となった心臓疾患を抱える患者にブタの心臓を移植しました。
移植されたブタの心臓は、人間の免疫システムによる拒絶反応を抑えるために、遺伝子操作を実施しています。
移植後、患者は一時的に安定した状態を保ち、数週間にわたって心臓が正常に機能しました。
しかし、どちらの患者もウイルス感染や免疫拒絶反応で患者が亡くなる結果となりました。
異種移植の最大の課題は、ヒト免疫システムによる拒絶反応です。
この問題を解決するために、ブタの特定の遺伝子を削除するなど、ヒト免疫系が攻撃しにくい状態を作り出す技術が採用されています。
しかし、こうした改良にもかかわらず、完全な免疫拒絶反応の回避には至っていません。
![胚盤胞補完法は動物の胚に多能性幹細胞を注入し、臓器を作製する革新的な技術](https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/003_e-900x600.jpg)
一方、動物の体内で臓器を作製する胚盤胞補完法は、このような問題を解決する技術として期待されています。
これまでの研究で、同種間 (例:マウスの胚にマウス由来の多能性幹細胞を注入) および異種間 (例:マウスの胚にラット由来の多能性幹細胞を注入) の胚盤胞補完法によって、腎臓や肝臓、膵臓など多くの臓器が作製されてきました。
胚盤胞補完法の発展により、動物の体内でヒトの臓器を作ることができれば、免疫拒絶反応の回避が可能かもしれません。
今回紹介する研究では、マウスの体内でラット由来の心臓を作製する実験が行われました。
それでは、具体的な研究成果と課題について詳しく見ていきましょう。