動物体内で育てた臓器の課題と未来展望
奈良先端科学技術大学院大学の研究グループは、胚盤胞補完法を用いて、マウスの体内でラットの心臓を作ることに成功しました。
この研究では、心臓が形成されないよう遺伝子操作を施したマウス胚盤胞にラットの多能性幹細胞 (ES細胞) を注入し、マウスの子宮内で発育させました。
その結果、ラット由来の心臓がマウス胚内で胎生12.5日目まで正常に機能することが確認されました。
しかし、胎生14.5日目以降では心臓の機能が失われ、胚の発育が停止することがわかりました。
![マウス胚内でラット由来の心臓が動く様子](https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/01/Videotogif-1.gif)
心臓の機能が失われる原因は、ラット細胞とマウス細胞の成長速度や異種間での細胞相互作用の違いが主な要因と考えられています。
今回の結果は、現段階では技術的課題が多く残されていることを意味します。
しかし、これらの課題が解決されれば、次のステップとしてヒトへの応用が視野に入ります。
患者自身の細胞を利用し、動物の体内で必要な臓器を作製することができれば、免疫拒絶反応を回避できる可能性があります。
つまり、胚盤胞補完法により、免疫拒絶反応やドナー不足といった従来の臓器移植が直面してきた課題を解決し、新たな移植医療の道を切り開くことが期待されます。
一方で、胚盤胞補完法がもたらす倫理的な壁もあります。
動物の体内でヒトの臓器を作製することに対する社会的な懸念や、実験動物の福祉を守るための適切なガイドラインの整備が挙げられます。
また、ヒトの細胞が混在する動物をどのように扱うべきか、倫理的な境界が曖昧になる問題も議論の対象です。
科学技術の進展と社会的価値観のバランスをどのように取るべきか、私たちの課題はまだ始まったばかりです。
胚盤胞補完法や異種移植など臓器移植に関する研究がさらに進展すれば、臓器不足問題の解消や新たな医療技術の創出が期待されます。
この研究分野が未来の医療にどのような形で貢献するのか、今後の進展に大いに期待が寄せられます。