理論が変える「時空」のとらえかた
コスモヘドラのような幾何学的アプローチが示唆するのは、「時空は当然あるもの」という前提をも再考させる大きな可能性です。
一方で、こうした“時空の脱構築”が示すのは「今の物理学を全部捨てる」という極端なものではありません。
あくまで既存理論を包含しながら、その背後にあるもっと根源的な“抽象的世界”を探り当てようという姿勢です。
時空の概念がなくとも、あるいは大幅に抽象化しても、量子力学や相対論の核心である「運動量保存」「局所性」「光速を超えられない」といった基本原理が維持される。
コスモヘドラの幾何学がそれを自動的に満たしてしまうという点は、多くの物理学者に驚きをもって受け止められています。
まるで、時空が存在しなくても、物理が一貫性を保つ“深いメカニズム”が確かにあるのかもしれないと思わせるからです。
ただし、理論的にはまだ課題も残っています。
コスモヘドラの着想は、粒子の衝突(散乱振幅)を計算しやすくする文脈から発展してきましたが、現実世界には電子のような電荷をもつ粒子や、強い相互作用・弱い相互作用といった複雑な力が存在します。
これらの相互作用は、単純な型(ϕ3乗型)とはちがう数多くの自由度を持ち、幾何学化がはるかに難しいのです。
研究者たちも「電磁気力やゲージ粒子」をどのようにコスモヘドラに取りこむか、まだ答えを探している段階とされています。
特に電荷をもつ粒子の散乱を扱うには、新たな次元(パラメータ)を追加しなければならない可能性も指摘されており、コスモヘドラをさらに拡張した“より大きな宝石”の構築が必要と目されています。
それでも、アッソシアヘドロンが最初は「特定のシンプルな理論」で成果を得て、後に範囲を広げていったように、コスモヘドラもいずれは現実の粒子物理や宇宙論全般へ食い込む道筋が見えてくるかもしれません。
もし将来、コスモヘドラの枠組みから導いた「宇宙全体の波動関数」が、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のデータや重力波観測の結果と矛盾しなければ、時空を抽象化しても物理が破綻しないことの強力な傍証になるかもしれません。
また、加速器実験(たとえばLHCなど)で測定される粒子散乱の詳しいデータも、コスモヘドラ的アプローチの予測を検証する糸口になるでしょう。
散乱振幅を「時空を使わない多面体の体積」で計算した結果が、実験値と合致すれば合致するほど「時空は必須ではないかもしれない」説が力を得ることになります。
宇宙の全てが宝石の形をしている──。
そう聞くと少々夢物語めいていますが、実際には量子力学や相対性理論の基本原理との調和を崩さずに、それらを「時空を使わずに」再構築できる幾何学が見え始めているのです。
非常に興味深い。時空そのものが何かの写し身にすぎないという。すると、その本体ってのは何なのか気になる。宇宙が象さんの上に亀が居て……というモデルだってやっぱりそれなりに合ってたかもしれないっていうわけだ。やはり、科学は軽々に人を侮辱するためものではなかった。。