2024 PT5は「小惑星帯から来たのでも、人工物でもない」
スペクトル分析に加えて、2024 PT5の軌道特性も重要な手がかりとなりました。
地球を周回する物体は、漂う人工物(例えばロケットの部品。つまり宇宙ゴミ)である場合もあります。
その場合、一般的には太陽放射圧(太陽光が天体に与える微小な圧力)によって軌道が変化するという特徴が見られます。
しかし、研究チームによる2024 PT5の詳細な軌道解析では、2024 PT5にはそのような挙動が観測されませんでした。
2024 PT5の軌道特性は、小惑星帯から来た天体や人工物では説明が難しいものだったのです。
これらの観測結果から、研究チームは2024 PT5が自然に形成された天体であり、「月のかけら」である可能性が極めて高いと結論付けました。
この発見は、これまであまり知られていなかった「月由来の小惑星」の存在に光を当てるきっかけとなっています。
これまでに月由来の小惑星として知られているのは、”469219 Kamo‘oalewa“です。
Kamo‘oalewaは2016年に発見された”準衛星”と呼ばれる軌道を持つ天体であり、以前の研究で月の岩石と一致するスペクトルを持つことが確認されています。
この天体は、「過去に月で発生した衝突によって放出された物質かもしれない」と考えられてきました。
そのため2024 PT5に関する新しい理解により、Kamo‘oalewaと同様の特徴を持つ月由来の天体が他にも存在する可能性が明確に浮き彫りになりました。
従来、小惑星帯からやってくる天体がほとんどだと考えられてきた地球近傍小惑星ですが、月面からの噴出物が地球近傍軌道で存在するケースがあるというわけです。
さらに、このような天体の発見は、月と地球の力学的相互作用を理解し、未解明の月面衝突の歴史を明らかにしてくれる可能性があります。
今回の発見は、地球近傍小惑星の起源に関する理解を深めるものです。
今後も、このような「月のかけら」が、月に関して多くのことを語ってくれるに違いありません。