ドローンで明らかになったイッカクの「狩り」と「遊び」
研究チームは2022年夏に、カナダの北極圏・ヌナブト準州のクレスウェル湾で、ドローンを使ったイッカクの撮影調査をしました。
特に興味深かったのは、イッカクが魚をどのように捕食するかを記録した場面です。
調査の結果、イッカクは牙を巧みに動かし、ときには魚を軽く突いたり、押したりしながら、その動きをコントロールしていることがわかりました。
さらに、魚を牙で素早く叩くことで、一瞬気絶させるような動作も観察されました。
こちらが実際の映像。黄色の丸の中に魚がいて、イッカクはそれを一本角で操作しています。

これはイッカクが従来考えられていた「牙は戦いや求愛のためのもの」という説だけでなく、「狩猟にも牙を利用している」ことを示す初めての証拠となります。
また研究者たちは、イッカクが牙を使って探索行動をしたり、ときには遊びのような動きを見せる場面も観察しました。
これにより、イッカクが知的で社会的な生き物であり、遊びや学習のためにも牙を使う可能性も示唆されました。
今回の研究で明らかになったのは、イッカクが単なる「北極の神秘的な生き物」ではなく、環境に適応しながら独自の狩猟技術を発達させていることです。
特に、近年の気候変動により北極の海氷環境が変化しており、イッカクの獲物の分布や種類も変わりつつあります。
このような環境変化に対応するために、イッカクが牙を使った新しい狩猟技術を進化させている可能性があります。

また、イッカクは社会的な生き物であり、他の個体の行動を観察して学習することも示唆されています。
このような知的な行動は、イッカクが生き残るために重要な適応戦略である可能性が高いです。
イッカクの牙は、まるでスイスアーミーナイフのような多機能ツールなのかもしれません。
今後の研究では、牙のさらなる用途や、他の個体との相互作用にどのような影響を与えるのかが明らかになることでしょう。