仕事と家庭は両立できるのか――迫られる“人生”の選択

今回の研究結果は少し想像力を働かせれば、直感的にも理解化できます。
朝から晩まで仕事漬けの日々が続けば、帰宅後に「将来の家族像」を思い描く余裕など到底ないかもしれません。
夜勤のある人は昼夜逆転で心身のリズムが乱れ、週末勤務のある人は家族や友人と過ごす機会が極端に限られます。
オンコール勤務の人は、「いつ呼び出されるかわからない」緊張感の中で休まる暇がほとんどありません。
こうした状況では、「子どもができたらどうしよう」という漠然とした不安が「今はとても無理だ」という諦念につながっても不思議ではないでしょう。
さらに問題を深刻化させる要因として、女性が受ける負担の大きさが挙げられます。
中国でも依然として「子どもの世話や家事は女性が中心」という考え方が残っているため、妊娠・出産そのものに加えて育児・家事の責任を負うプレッシャーが大きいのです。
未婚者にとっては、これから家族計画を立てるかどうかを判断するタイミングであるだけに、長時間労働が負担に感じられれば「結婚や出産は後回しにしよう」と考えやすいのも自然な流れです。
一方で、フレックスタイムやリモートワークの導入など柔軟な働き方を認めている職場では、比較的高い出生意欲が維持されていました。
在宅勤務であれば家事を合間に済ませられますし、フレックス制度があれば通勤ラッシュを避けたり、子どもの送り迎え時間に合わせてスケジュールを調整したりと、生活の自由度が高まります。
こうしたささやかな工夫によって、“子どもを育てながら仕事も続けられる”という実感が得られれば、将来に対する不安はだいぶ軽減されるはずです。
もちろん、この研究は横断的なデータに基づいており、出産意欲が実際の出生率に直結するかどうか、あるいは今後どのように変化していくかについてはまだ不透明な部分もあります。
また、非公式な仕事やフリーランスでの労働がどの程度影響を与えているのか、十分には測定できていない可能性も考えられます。
しかし、大規模データによって「長時間労働が出生率の低下に関わる重要要因」として浮上したことは、大きな意義があります。
経済的支援や住宅政策だけでなく、残業を減らし、柔軟な勤務形態や十分な育児休暇を整えることも少子化対策として不可欠だと強調されたのです。
つい「将来の人口構成」や「社会保障費の増大」といった数字だけに目が行きがちですが、実際に子どもを育てるかどうかの判断は、身近な暮らしの中で感じる“時間のゆとり”や“精神的安定”といった要素に左右されがちです。
国や企業、自治体がそれぞれできることを真剣に考え、実行に移していくことで、「子どもが欲しい」と望む人の背中を押せる社会を作ることができるのではないでしょうか。
「仕事か家庭か」の二者択一ではなく、「仕事と家庭をどうバランスよく両立させるか」。こうした視点が、少子化を食い止めるカギになるのかもしれません。
週40時間労働に進んでくれると、いろいろと助かりますね。
出生抑制の歴史
1948年~ 行政指導として家族計画推進(人工妊娠中絶・避妊推奨)
1970年~ ローマクラブ『成長の限界』より「子どもは二人まで」強力に誘導。
*3人兄弟の消滅。
1990年代後半まで、少子化対策は行われず。
1970年代 人口問題審議会「総人口を1億2,000万人程度に安定させることが望ましい」との提言。
予定通り、2008年に約1億2,808万人でピーク。