なぜ麻酔で外国語症候群が起こったのか、原因不明
少年は無事に日常生活に戻ることができたものの、なぜ術後に外国語症候群が起こったのか、その原因は明らかになっていません。
研究チームは、今回の症例が「覚醒時せん妄(Emergence Delirium:ED)」と呼ばれる現象の一種である可能性を示唆しています。
EDとは、麻酔からの覚醒直後に一時的な混乱状態や錯乱が見られるもので、特に小児によく起こるとされています。
今回の少年も、自分がどこにいるか分からなくなり、両親を認識できず、混乱した様子が見られた点でEDとの類似が指摘されています。
ただしFLSがEDの一部なのか、それとも全く別の現象なのかは、いまだに論争が続いています。
EDは通常、30分以内におさまるとされていますが、FLSのように24時間以上続くこともあります。

その後の少年の神経学的検査や心理検査では、記憶力や認知能力に大きな問題は見つかっておらず、術後から1年後の再検査でも、日常生活に支障はないとの結果が得られています。
少年の症例においては、全身麻酔が脳の機能になんらかの混乱を引き起こしたことが間違いないでしょうが、その詳しい発症メカニズムが現在も解明が進められているところです。
また、これだけ世界中で全身麻酔が行われている現在でも、全身麻酔がどのように作用するのかは完全に解明されていません。
麻酔が私たちの脳や身体に与える影響には、まだまだ謎めいたものがあるようです。