悪魔の階段:秩序とカオスのはざまで

時間結晶に刺激を与えたらどうなるのか?
謎を解明するため研究チームはまず、インジウムを少しだけ混ぜたヒ化ガリウム(InGaAs)の半導体を用意し、その中で電子スピンと核スピンがお互いを支え合うように振動する仕組み――いわゆる連続時間結晶――を作り出しました。
イメージとしては、小さな磁石同士が連携し合いながら、ほぼ一定のリズムで回転し続ける状態を保つようなものです。
次に、そのリズムを“ほんの少しだけ揺さぶる”ため、レーザー光の偏光を周期的に変えて外部から刺激を与えました。
すると、ぴったり同期してリズムが合う周波数帯がいくつも見つかっただけでなく、ちょっとした条件の変化で突然リズムが乱れ、カオスのように不規則になる場面も捉えられました。
さらに、周波数を連続的に変えていくと、悪魔の階段と呼ばれる階段状のパターンが鮮明に浮かび上がり、階段の端では複数の周波数成分が干渉し合ってカオス状態に突入することも確認されたのです。
要するに、外からわずかな刺激を加えるだけで、安定していた時間結晶が思ったより繊細にいろいろなリズムへ変化していくことがわかったわけです。