“わざとカオス”を操る時代――時間結晶が示す新世界

これまで多くの人は、時間結晶と聞くと「いったん振動を始めたら、そのままずっと安定して動き続けるもの」というイメージを抱きがちでした。
しかし今回の研究を通じてわかったのは、そんな安定なはずの時間結晶が、わずかな外部刺激によって新たなリズムへすんなり移行したり、カオスに近い不規則な動きを示したりするほど柔軟性を秘めているということです。
しかも、この意外な不安定性と安定性の混ざり合った状態を、私たちの日常生活を支える半導体スピンで再現できたという点が非常に画期的といえます。
もし、「わざと時間結晶をカオス寄りに揺さぶり、周波数を自在に操る」ような制御技術が確立されれば、高精度の発振器や超精密なタイミング制御装置、さらにはカオスを使った暗号通信システムなど、幅広い応用が考えられます。
実際、同期とカオスは裏表の関係にあり、きちんと合っていたリズムから少しずれただけで、複数の周波数成分が衝突して“混沌”を生み出すのです。
その“悪魔の階段”と呼ばれる境界領域が持つ魅力は以前から理論的に示唆されていましたが、今回のように実験で鮮明に捉えられた例は極めて珍しいといえます。
そして、連続時間結晶が「まるで固い結晶のように時を刻む」というイメージを覆し、実はフラクタルの階段を一歩ずつ上り下りするように変化し続けているらしい、という知見を得られたことも大きな収穫です。
今後はさらに高い周波数領域や、量子的な現象が加わる場面でも時間結晶と悪魔の階段がどう絡み合うのかを探っていくことで、新しい物性の発見や制御技術の誕生につながるのではないかと期待されています。