史上最古のクレームの内容とは?
この粘土板は紀元前1750年ごろ、メソポタミア南部の都市ウルで書かれたものです。
粘土板の大きさは縦11.6センチ、横5センチとかなり小さいですが、その裏表にアッカド語でびっしりとクレームが刻まれていました。
このアッカド語はアッシリア学者のアドルフ・レオ・オッペンハイム(Adolf Leo Oppenheim、1904〜1974)によって翻訳され、1967年に出版された彼の著書『メソポタミアの書簡集(Letters from Mesopotamia)』に収録されています。
実際の粘土板の写真がこちらです。

粘土板に記されたクレームは「ナンニ(Nanni)」というメソポタミア人の男性から、銅商人の「エア・ナーシル(Ea-nasir)」という人物に宛てられたものです。
粘土板には、ナンニの受け取った銅の品質が事前の約束と違っていたことに対する強い怒りが記されていました。
ナンニはまず、エア・ナーシルが「高品質の銅インゴット(※)を渡す」と約束したにもかかわらず、 実際には粗悪な品を送りつけてきたことを厳しく批難しています。
(※ インゴットとは、金属を精錬して鋳型に流し込み、固めた金属の塊のこと)
さらに自分の使者を何度も送り、前払いで預けた金を返してもらおうとしたが、 そのたびに手ぶらで返され、しかも使者は危険な敵地を通らされたと訴えています。
「こんな侮辱を受ける覚えはない。お前だけが、私の使者をこんなふうに扱うのだ!」
ナンニはそう怒りをぶつけます。
驚くべきは、その文面の感情表現の豊かさと、現代にも通じる”消費者の怒り”の構造です。
やや形式的な書き出しこそあるものの、後半に進むにつれ、「何様のつもりだ?」「私はこんな扱いを受ける人間ではない」といった言葉が並び、 思わず現代のクレーム文書やSNSでの炎上投稿と重ねてしまう読者も多いはずです。
では、オッペンハイムによって翻訳されたクレームの全文を見てみましょう。