時間測定が空間を創る? 実験で見えた三次元の正体

実験的にも時間から空間を導出できるのか?
謎を解明するため研究者たちはまず、測定対象となる単一の量子ビットが用意し、それに対して一定の時間間隔で繰り返しの測定が行われました。
たとえば「今の測定で+1が出た」「少し後の測定で−1が出た」といった具合に、時間を区切って記録するのです。
そのうえで、ある時点と次の時点の結果がどの程度“似ている”か(相関が高いか)、あるいは“違う”か(相関が低いか)を体系的に整理します。
イメージとしては、回転するコマに対して「コマの軸がどの方向を向いているか」をこまめに観察しているようなものです。
コマの軸が連続的に動けば測定結果も変わるし、そこに軽く触れてしまえば(測定による影響)コマの軸が別の方向に飛んでしまうこともある。
それらを時間ごとに記録し、データを眺めると、連続した測定結果同士の相関のパターンが徐々に浮かび上がってきます。
すると驚くべきことに、この相関パターンが「三次元のユークリッド空間の“内積”と同じ数式構造を持つ」ことが示されたのです。
さらに重要なのは、初期状態(コマが最初にどの軸を向いていたか)を知らなくても、繰り返し測定して得られる相関をもとに、三次元空間における“距離”や“角度”の概念とそっくりのものが再現できるという点。
言い換えれば、「量子ビットが何から始まったか分からなくても、時間をかけて連続的に観測していけば、三次元という概念が一貫して取り出せる」ことになります。
ここから得られる示唆は、「三次元空間」という舞台がはじめから確立していなくても、“時間に応じた測定相関”さえあれば、三次元に匹敵する構造が自然と導かれるということです。
私たちが普段、「どこにいるのか」「どのくらい離れているのか」といった空間的な問いを立てる際、当たり前のように座標系や距離の概念を使います。
しかし本研究では、そのような座標系や舞台をまったく仮定せず、あくまでも“時間”を順番通りに踏んでいく観測結果の連なりから、三次元の幾何学情報を復元できることが示されたのです。
言い換えると、時間こそが先にあって、空間はその上に生じる副産物的な存在にすぎない、という可能性が浮上してきます。
そしてこの結果は、将来的には私たちが当然視してきた「空間ありき」という世界観を塗り替える可能性を秘めていると言えるのです。