パーキンソン病と診断される17年前に気づいていた
ジョイ・ミルンさん(75歳)は、スコットランド出身の元看護師です。
彼女は生まれつき「嗅覚過敏症(ハイパーオスミア)」という、匂いに対する感度が極めて高い体質を持っていました。
そんなある日、ジョイさんは夫レスさんの体臭がじゃこうのような苦くて渋いワックス臭に変わったことに気づきます。
それから夫に特に変わった様子は見られなかったものの、次第に運動機能に異変が現れ始め、医師により正式にパーキンソン病と診断されたのです。
しかし、レスさんに診断が下されたのは、ジョイさんが匂いの変化に気づいてから実に17年も経った後のことでした。

ジョイさんは「当時は夫の匂いの変化の意味がわからなかったものの、後にパーキンソン病と診断されたとき、すべての謎が解けたのです」と話しています。
さらに彼女は、パーキンソン病患者たちが集う支援グループの場でも、同じ独特な匂いを再び嗅ぎ取っていました。
これは単なる偶然ではないと確信したジョイさんは、科学者たちと手を組むことになります。
2013年、マンチェスター大学の化学者パーディタ・バラン教授と出会ったジョイさんは、ある実験に挑戦しました。
それはパーキンソン病患者と健常者が一晩着たTシャツを嗅ぎ分けるというものです。
その結果、ジョイさんはほぼ完璧に両者の匂いを正しく識別することに成功しました。
ただ一枚だけ、対照群(健康な人)のTシャツをパーキンソン病患者のものと誤認しています。
ところが驚くべきことに、匂いを誤認されたその人は実験から9カ月後にパーキンソン病と診断されたのです。
つまりジョイさんの鼻は、未来に起こる病の兆しさえも嗅ぎ取っていたのです。
このエピソードをきっかけに、科学は彼女の嗅覚に追いつこうと本格的な研究に乗り出しました。