三次試験:適性検査

子宮頸管を突破して子宮の広々とした空間に入った精子たちも、まだまだ気は抜けません。
なぜなら、次は女性の免疫システムが待ち受けているからです。
私たちの体は、基本的に「外から侵入してきたもの」を排除するよう設計されています。
精子も例外ではなく、子宮内に入った時点で白血球などの免疫細胞から攻撃を受け、多くがここで脱落してしまうのです。
さらに、左右2本ある卵管のうち“正解”の卵管へ向かわないと、そもそも卵子に出会えない可能性もあります。
たとえば右側の卵管に卵子がいないときにそちらへ突き進んでしまえば、いわば「不採用」になってしまうわけです。
とはいえ、子宮はただ厳しいだけの環境というわけでもありません。
女性がオーガズムに達すると子宮が収縮し、精子をぐっと卵管へ押し上げるように手助けしてくれることもあるのです。
つまり子宮は、不必要な精子を淘汰しつつ、有望な精子には先に進む手助けもしているのです。
その証拠に、マウスの実験では子宮内で精子を殺す物質が作用し、特定のタンパク質でコーティングされた精子だけが生き残って卵管へ到達できることが報告されています。
このようにオス由来の精液成分が精子を防御し、メス由来の攻撃をかわすことで子宮内での競争的選抜が行われているのです。
この子宮内での関門は、さしずめ就活の適性検査に相当すると言えるでしょう。
免疫というセキュリティチェックを潜り抜け、環境への適応力を示した精子だけが次のステージに進めます。
さらに、ここまでたどり着いた精子は生存力だけでなく質の面でも選び抜かれています。
例えば精子の持つ遺伝情報の損傷具合(DNA断片化の有無)は、その後の受精や胚発生に大きく影響しますが、女性の生殖器官内を生き残れる精子にはDNAが健全なものが多いと考えられます。
この段階までの過酷な選抜によって、体内にはより優れた性質を持つ精子集団が残るのです。
また、精子はこの旅の途中で受精能力を高める「受精能獲得(capacitation)」という成熟過程を完了します。
いわば本番の受精に向けた実地トレーニングを積んだわけです。
実際、性交後ごく早く卵管に到達した精子はまだ十分に成熟しておらず、受精には与れないことが多いとされています。
こうして適性検査を突破し受精準備も万端に整えた精鋭たちが、最後の舞台である卵管へと挑むのです。