
受精の主舞台である卵管に入れる精子の数は、最初の数億匹からぐんと減ってわずか数百匹ほどになると推定されています。
就活でいえば「最終面接に呼ばれた候補者」といったところ。
そこへ、卵巣から放たれた卵子が卵管内へ到着すると、いよいよ両者の“直接対面”が始まります。
おもしろいのは、卵子の方から「化学物質」のシグナルを発して精子を呼び寄せているらしいという点です。
これは「化学走性」と呼ばれ、卵子が出す匂いのような物質を精子が感知し、誘導されるように卵子の周囲に集まってくる仕組みです。
しかも最近の研究では、卵子が発する化学信号に「好み」があって、ある精子には強く反応するのに、別の精子にはそうでもない……という現象が示唆されています。
まさに「面接官(卵子)のお眼鏡にかなった精子」だけが、最終候補として呼ばれている可能性があるのです。
ここまでの難関を突破しやっとこぎ着けた面接の基準が、面接官の個人的好みというのも生物学の厳しさの1つと言えるでしょう。
さらに、女性と男性の遺伝的な相性(免疫関連のHLA型)によって、女性の卵管内で精子の活発さが変わるという報告もあります。
言い換えれば、遺伝子的に相性の良い相手の精子ほど、ここで元気に泳げるようになるのかもしれません。
卵管で行われるこのプロセスは、まさに「最終面接」に例えられるでしょう。
卵子という採用担当者が“相性も含めてベストな候補”を見極めるシーンなのです。