二重スリット実験の解釈に挑む新理論

光は波でしょうか、それとも粒子でしょうか?
――この問いは17世紀のニュートンやホイヘンス以来、物理学者たちを悩ませてきました。
1800年代初頭、ヤングの二重スリット実験によって光の干渉縞が観測されると、人々は「光は波だ」と考えるようになりました。
19世紀末にマックスウェルが電磁波としての光を理論化し、その後20世紀初頭にはアインシュタインが光電効果の説明から「光は粒子でもある(光量子=フォトン)」と提唱します。
こうして現在では「光は波であり粒子でもある」という二重性が定着しました。
しかし、この二重性には直観に反する不思議な点が残っています。
最大の不思議は、観測者効果と呼ばれる現象です。
二重スリット実験で「どのスリットを通ったか」を観測しようとすると、干渉縞が消えてしまうことが知られています。
まるで観測行為が光のふるまい(現実)そのものを変えてしまうかのように見えるため、量子論にはどこか神秘的なイメージが付きまとってきました。
実際、「人が見ているかどうかで結果が変わるなんて不思議だ」と感じる方も多いでしょう。
こうした量子的な観測者効果は長らく「測定によって波が崩れる(波動関数の崩壊)」と説明されますが、なぜ観測すると波が消えるのか、そのメカニズムについて直感的な理解は十分とは言えませんでした。
もう一つの疑問は、「完全に打ち消し合った光は本当に“無”なのか?」という点です。
古典的(非量子的)な理論では、例えば2つの光波が互いに完全に逆位相で干渉(=電場が打ち消し合う)すると、その場の光の強度(明るさ)はゼロになります。
当然、そこに置いた物質(検出器)は光と相互作用できなくなる、つまり光の影響を受けないはずです。
ところが量子論では、「平均的な電場がゼロでも、光粒子(フォトン)は相手と干渉しつつ何らかの形で物質と相互作用し続ける」可能性が示唆されます。
実験的にも、一度に1個ずつ放たれる単一光子で二重スリット実験を行うと、個々の光子はランダムにスクリーンに着弾しますが、たくさん繰り返すと干渉縞が浮かび上がります。
つまり、一粒一粒の光子レベルでも干渉パターンを作る原因が何か存在するはずなのです。
こうした疑問に答えるため、研究者たちは、光の干渉について量子光学の観点から改めて理論的な研究を行いました。
果たして既存理論の示す波と粒子の二重性をどこまで追い詰められたのでしょうか?