脊索動物なのにプランクトン?オタマボヤとは何者か

オタマボヤは動物分類学上、脊椎動物に近い「脊索動物」に属しホヤの仲間とされる生物です。
同じ脊索動物に属する動物としては、ヤツメウナギが比較的有名です。
しかしオタマボヤは脊椎動物やヤツメウナギたちとは比べ物にならないくらい小さく体長は数ミリ程(大型種でも1cm前後)で自由遊泳するプランクトンに分類されます。
脊椎動物に近い存在がプランクトンとして分類されているというと、意外に思われる方も多いかもしれません。
ただ「プランクトン」とは実は進化的な分類ではなく、“海中を漂う生活様式”を示す存在の総称に過ぎません。
オタマボヤも魚やイカのように自力で活発に泳いで移動するわけではなく、海流に乗って流されて生きているために、大きく「プランクトン」に括られてしまうのです。
また通常、ホヤの仲間は成体になると海底などに固着する種類が多いのですが、オタマボヤは最後まで固着せず、幼生の姿のまま成熟する(ネオテニー)ため、成体でも幼生に似た単純な体構造に留まります。
こうしたう独特の生態が、オタマボヤに特異な進化や体づくりの戦略をもたらしている可能性があり、そこに研究者が強い興味を抱く要因のひとつともなっています。
特に注目すべきは、オタマボヤの体は脊索動物としては驚くほどシンプルなところです。
その体には脊索や中枢神経こそ備わっていますが、細胞数は大人になってもわずか約4,500個に過ぎません(幼体では550個)。
淡水プランクトンとして知られるミジンコ類の成体が数十万から百数十万個と考えられるため、オタマボヤの4,500細胞という数字がいかに“桁違いに少ない”かが際立ちます。
発生学的にも尾索動物の中で最も単純な体を持つ生物とされています。
さらにオタマボヤは脊索動物中最小のゲノムサイズを持つ生物としても知られています。
ヒトのゲノムサイズが約3.2ギガベースであるのに対し、オタマボヤのゲノムサイズはわずか約70メガベースしかありません。
このサイズは単細胞の動物プランクトンであるゾウリムシ(72メガベース)とほぼ同じで、寄生性生物を除けば多細胞生物で最小クラスです。
(※ゾウリムシには細胞内で遺伝子発現に使う通常のマクロ核(72メガベース)に加えて、ミクロ核と呼ばれる配偶子用の核があり、そちらは150メガベースあることが知られています。そちらを含めるとオタマボヤのゲノムサイズは単細胞生物のゾウリムシ以下となります)
このように、オタマボヤは体だけでなくゲノムも極限までコンパクト化した生物と言えます。
また世代の短さと大人になる時間の短さも際立っています。
オタマボヤは世代時間が約5日間と短く、卵の受精からわずか10時間で成体と同じ形態が完成するという驚異的なスピードで発生が進みます。
これは脊索動物として例外的な速さであり、どのような遺伝子制御でそれが可能になっているのか興味が持たれていました。
いったいどんな仕組みがオタマボヤの超高速な一生と成長を支えているのでしょうか?