暴力犯の脳では「恐怖の認知症」ではなく「敵意の誤検出」が起きている

研究者たちは、ドイツの刑務所に収容中の暴力犯罪者65名(全員男性)と、年齢をそろえた男性対照群60名を対象に、恐怖や怒りの表情をどのように処理するかを詳しく調べるため、合計4種類の課題を用意しました。
受刑者グループの中にはサイコパス評価(PCL-R)で高得点を示した者も21名含まれていました。
最初の2つの課題では、複数の顔写真の中から特定の顔を素早く探し当てたり、その表情をできるだけ正確に識別したりするよう求められました。
そこでは「恐怖の顔を見つける速度が特別に遅れる」「怒った表情だけやたらと目につく」といった特徴的な偏りは確認されず、暴力犯と対照群で顕著な差が見られませんでした。
続く無表情から徐々に感情を帯びていく顔を見せられたとき、暴力犯が恐怖や怒りの表情を認識するのが極端に遅れたり早すぎたりすることはありませんでした。
これらの結果は、「暴力的な人はそもそも恐怖表情を読み取れない」という従来の仮説とは相容れませんでした。
ところが、異なる結果が見られたのは、曖昧な顔を見せて「これは何の感情に見えるか」を回答させる課題でした。
たとえば「50%怒り+50%幸せ」のように解釈が難しい表情を提示した場合、暴力犯は対照群に比べてそれを「怒っている」と回答する割合が有意に高まりました。
特に自己申告の攻撃性が強い人ほど、この曖昧な顔を「怒りだ」と決めつける傾向が顕著でした。
一方、サイコパス傾向との間には明確な関連が見つかりませんでした。
つまり、恐怖顔を見逃すような視覚認知の障害は示されなかったものの、「相手が怒っているに違いない」と解釈してしまう認知バイアスが暴力性と結びついていることがうかがえます。
研究者たちは、暴力行動の背景には恐怖表情の読み取りミスではなく、このような「敵意帰属バイアス(怒りを見出しやすい)」が大きく関与している可能性を指摘しています。