なぜ日本は短眠でも長寿? 定説を揺さぶった疑問から研究は始まった

睡眠の「必要時間」は長らく人類共通の生理的なものと考えられてきました。
成人なら7~8時間程度の睡眠が理想とされ、慢性的な短時間睡眠はさまざまな健康リスク(肥満や心疾患、メンタル不調など)を高めることも多くの研究で示唆されています。
たしかに睡眠時間が極端に短すぎると健康を損なうことは事実でしょう。
一方で世界に目を向けると、人々の平均睡眠時間には国ごとに大きな差があります。
例えば日本人の平均睡眠時間は約6時間18分と諸外国より短く、フランスでは7時間52分と大幅に長く、両国の間には90分以上もの開きがあります。
それにもかかわらず、日本は世界有数の長寿国として知られています(2023年のWHO統計では平均寿命84.3歳で世界一)。
この事実は「睡眠時間が短い国では人々の健康状態も悪いのか?」「それとも必要な睡眠時間は国民性や文化によって違うのか?」という疑問を投げかけます。
この疑問に答えるため、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学(UBC)のスティーブン・ハイン(Steven J. Heine)教授らの研究チームは、「文化によって最適な睡眠時間が異なる可能性」を念頭に国際比較研究を行いました。
社会文化心理学者であるハイン教授と、主著者のクリスティン・ウー(Christine Ou)氏(ビクトリア大学看護学部)らは、世界20か国を対象に2つの調査研究を実施し、文化ごとの睡眠パターンと健康との関係を詳しく検証したのです。
研究のねらいは、平均睡眠時間が短い国の人々は本当に不健康なのか、そして各文化圏で「理想」とされる睡眠時間が健康にどう影響するのかを明らかにすることでした。