サンゴ礁消滅で海はどう変わる?

地球温暖化に伴い海水温の上昇と海洋酸性化が進むと、サンゴが石灰質の骨格(炭酸カルシウム:CaCO₃)を作り維持することが難しくなり、やがてサンゴ礁そのものが溶けて崩壊し始める可能性があるといわれています。
サンゴ礁は海洋生態系の宝庫であり、その消失は生物多様性や沿岸地域社会に深刻な影響を及ぼすため、保全が急務です。
しかし一方で、サンゴが骨格を形成する「石灰化」の過程では水中の総アルカリ度(Alk)と無機炭素(DIC)が2:1で減り、結果として海水のpCO₂が上がりCO₂が放出されるという事実はあまり一般に知られていません。
このため、活発に石灰化するサンゴ礁は炭素をCaCO₃として海底に固定しつつも、同時に一定量のCO₂を海水中に放出し大気へ戻す要因にもなり得るのです。
では、気候変動でサンゴ礁が衰退し石灰化が減少したら、そのCO₂放出はどうなるのでしょうか。
さらに深刻な場合、サンゴ礁の骨格が溶け出す「溶解」が起これば総アルカリ度と無機炭素が増え、海水のpCO₂が下がるため、大気からのCO₂吸収が促進されます。
つまり、サンゴ礁が失われ石灰化が止まれば、海洋からのCO₂放出が減り、場合によっては海が大気中のCO₂を今まで以上に吸収するようになる可能性があるのです。
サンゴ礁が消えることを「利点」と捉えることに拒否感を持つ人もいるかもしれません。
しかし特定の生物種消滅の影響は単純なものではありません。
サンゴ礁消滅に対する正負両面の影響を理解することは、より正確な気候変化の予測において必要不可欠なのです。
そこで今回研究者たちはこのようなサンゴ礁消失による気候への「皮肉な利点」に着目し、その影響の大きさを定量的に評価することにしました。