眠りの常識が覆る!夜の明るさと心臓病リスクの関係

夜間に光を浴びることは、本当に将来の心臓病リスクを高めるの?
答えを得るために、研究者たちはまず英国の大規模な健康調査プロジェクト「UKバイオバンク」に参加している約8万9千人(平均年齢62.4歳、女性の割合は57%)に注目しました。
これは、夜間の光と心臓病リスクの関係を調べた研究としては世界で最も大規模なものです。
実験は、参加者たちに専用の小さな光センサーを手首に装着してもらうところから始まりました。
このセンサーは周囲の明るさを記録するもので、参加者がどのくらい明るい環境で1週間を過ごしているかを詳しく記録しました。
研究チームはその後、このデータをもとに参加者を約8年(最長10年近く)にわたって追跡調査し、狭心症、心筋梗塞、心不全、脳卒中などの病気が新たに発症するかを調べました。
その結果、「夜間の明るい環境」が確かに将来の心臓病リスクを高めていることが明らかになりました。
具体的には、夜間の明るさが強ければ強いほど、後に心臓病や脳卒中を発症する人が増えていたのです。
最も暗い環境で過ごしていたグループと比較すると、夜間に最も明るい環境で過ごした人では、心筋梗塞のリスクが最大47%、心不全は最大56%、冠動脈疾患は最大32%、脳卒中は最大30%も高くなっていました。
夜の明るさ、どれくらいから心臓に悪いの?
「明るい」と言っても一体どれくらいの光がリスクになるのでしょう?研究では、夜間の明るさを次の4つのグループに分類しました。
最も暗い環境(0〜50パーセンタイル):約0.62ルクス
(薄暗い月明かりがカーテン越しに感じられる程度)やや明るい環境(50〜70パーセンタイル):約2.48ルクス
(豆電球や小型の常夜灯で部屋がぼんやり見える程度)比較的明るい環境(70〜90パーセンタイル):約16.4ルクス
(部屋全体がうっすら見渡せる薄暗い室内灯レベル)非常に明るい環境(90〜100パーセンタイル):約105ルクス
(明るい室内照明やスマートフォン、テレビの光を間近で浴びている程度)研究では夜間にわずか数ルクス程度の弱い光曝露でも健康リスクが徐々に高まり、特に100ルクス前後の環境(明るい室内や街灯の下程度の明るさ)では、心臓病リスクが著しく増加することが示されています。実践的には、寝室の照明は消し、必要なら小さく暗い間接照明を使用し、寝る前にはスマホやタブレットをなるべく見ないようにすることが推奨されます。
さらに注目すべき結果は、夜間の明るさによる心臓病リスクの上昇が、女性において特に強く現れていたことです。
通常、女性は同年代の男性に比べて心臓病のリスクが低いことが知られています。
ところが、この研究では、夜間の明るい環境で寝ていた女性は、本来持っているはずの「女性特有のリスクの低さ」がほぼ完全に打ち消され、男性とほとんど同じレベルまでリスクが上昇していました。
研究チームは、この結果について、女性の体内時計が男性に比べて明るい光の影響を受けやすく、それによって本来のリスクの低さが失われたのではないかと考えています。
この研究が画期的なのは、わずか1週間の光センサーのデータだけで、10年近く先に起こる心臓病リスクを高い精度で予測できた点です。
実際、研究者たちは「夜間の光を避けることが、心臓病のリスクを低下させるために有効な戦略となりうる」と述べています。
つまり、私たちが毎晩のように浴びている「人工的な光」が、単なる睡眠不足以上に重大な健康リスクを秘めていることが、長期間の追跡調査により初めて明確に示されたのです。