自己愛と物質主義をつなぐ「セレブという鏡」

今回の研究で測定されたナルシシズムは、2つの異なるタイプに分けられています。
1つは「誇大的ナルシシズム(grandiose narcissism)」と呼ばれ、自信過剰や支配欲、他者への優越感が特徴です。
もう1つが先の「脆弱なナルシシズム」で、不安定な自己評価や感情の揺らぎが特徴です。
興味深いことに、セレブ崇拝と有意な関係が見られたのは、後者の「脆弱な」タイプでした。
つまり、誰かに認められたい、批判されることを恐れる、という繊細な内面を持つ人ほど、セレブに強く惹かれ、感情的に結びついているのです。
また、こうした人々は「自分はセレブに似ている」と感じている傾向が強く、それが憧れをより強固にし、結果として自己愛傾向や物質主義的な価値観を高める要因になっていると考えられています。
実際、セレブ崇拝と物質主義の間には強い関連が見られました。
憧れのセレブのような高級な持ち物やライフスタイルを追い求める傾向は、しばしば自己肯定感の補完手段として機能します。
さらに「誇大的ナルシシズム」を持つ人もまた、物質的な所有を通じて地位や名声を示そうとする傾向があることが示唆されました。
つまり、動機の違いこそあれど、自己愛傾向のある人々は、物質的なものやセレブとの関係性を通じて、自分自身の価値を支えようとしているのかもしれません。
そして、その中心には「私はあの人に似ている」という認知があるのです。
セレブへの憧れは、人間の自然な感情です。自分とは違う世界に生きる彼らに魅了され、夢を見ることは悪いことではありません。
しかし、「自分と似ている」と感じたとき、その夢はただの空想ではなく、自分自身の鏡として働き始めます。
今回の研究が示したように、その鏡は私たちの中の不安や欲求、そして承認への渇望を反映しているのかもしれません。