蚊に刺されやすいかは血液型や食生活によるのか?

昔から蚊に刺されやすいと言われてきた要因は正しいのか?
研究ではその点についても調べられました。
例えば「O型の血液型は蚊に刺されやすい」という話を聞いたことがある人もいるでしょう。
しかし、この実験では参加者の血液型と蚊の寄りやすさとの間にはっきりした関係は見つかりませんでした。
また、食生活についても調べましたが、ベジタリアン(野菜中心の食生活の人)やヴィーガン(動物性食品をまったく食べない人)と、普通の食事をする人との間に、蚊の好みに明らかな違いはありませんでした。
同じく、男女の性別の違いも蚊の好みに影響を与えないことが分かりました。
こうした結果は、今までの「蚊に刺されやすい人は血液型や体質によるもの」という一般的なイメージとは異なっているため、非常に興味深いものです。
さらに研究者たちは、もう一歩踏み込んで、参加者たちの肌にいる微生物(皮膚マイクロバイオーム)にも注目しました。
人間の肌の表面には、目に見えないほど小さな細菌がたくさん住んでいます。
これらの細菌が出す物質が、肌のにおいを作り出すことが知られています。
実際に蚊は、この肌のにおいに強く引き寄せられるのです。
肌から採取した細菌を調べた結果、蚊に好かれやすかった人には「ストレプトコッカス(連鎖球菌)」という種類の細菌が比較的多いことが分かりました。
しかし、この結果には統計的な処理で完全には確かめられていない部分(未補正)もあります。
また、細菌の種類の豊富さ(多様性)についても、蚊に刺されやすい人と刺されにくい人の間には大きな差はありませんでした。
つまり「蚊が好む肌のにおい」は、単純に一種類の細菌が多いか少ないかだけで決まるほど単純ではなく、より複雑な仕組みが関わっている可能性が高いのです。
こうした中で、参加者465人のうち、蚊がまったく寄り付かなかったのはわずかに4人だけでした。
つまり、どんなに対策をしても、「絶対に蚊に刺されない人」はほんの一握りしかいないのです。
こうした結果を踏まえ、研究者たちは「夏やアウトドアの場では、日焼け止めを持ち歩くことが賢明だろう」とアドバイスしています。
確かに蚊よけスプレーも有効ですが、日焼け止めにも蚊が嫌う成分が含まれている可能性が示唆されているため、手軽に試せる有効な予防法となるかもしれません。
しかしその一方で、いくつかの限界や注意点も見逃せません。
まず最大の特徴である「音楽フェス」という環境は、参加者が非日常のテンションに包まれているだけでなく、普段よりも衛生や生活リズムが乱れやすい状況でした。
研究チームも認めている通り、参加者の多くは“科学に関心が高い”層に偏っており、しかも測定は昼間に限定されていました。
つまり、この結果がすべての日常生活や別の季節・国・年齢層にそのまま当てはまるとは言い切れません。
また、使われた蚊の種類はアノフェレス・ステファンシィのみであり、日本で一般的なヒトスジシマカやアカイエカなど、他の種では異なる結果が出る可能性があります。
さらにアンケート調査の内容も、一部は自己申告に頼らざるをえないため、飲酒量やシャワーのタイミングなどに多少の誤差が含まれているかもしれません。
それでも本研究は「なぜ自分だけ蚊に刺されやすいのか?」という多くの人の疑問に対し、大規模かつリアルな現場で正面から迫った点はやはり画期的です。
「蚊に刺されやすいかどうか」は特別な体質だけでなく、意外にも普段の行動や習慣によって大きく左右される可能性があることが示されたからです。
今回の研究が開いた「蚊にモテる/モテないの科学」の扉は、私たちの日常の行動を見直し、感染症リスク低減にもつながる新しい知識への第一歩になるはずです。