熱と電気が「別行動」する様子を観察することに成功
熱と電気が「別行動」する様子を観察することに成功 / Credit:川勝康弘
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熱と電気が「別行動」する様子を観察することに成功 (3/3)

2025.09.26 21:00:23 Friday

前ページ電気が流れるほど熱は止まる—「電子が液体になる」とは?

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電子の液体はどこまで応用可能?

電子の液体はどこまで応用可能?
電子の液体はどこまで応用可能? / Credit:Canva

今回の研究によってグラフェンは「電子のほぼ完全流体を実現し得る格好の実験舞台」であることが示されました。

電気伝導と熱伝導が逆走するほど分離し、それぞれが普遍値によって支配される様子は、物質の振る舞いが私たちの常識を超えた条件下でいかに変幻自在になり得るかを物語っています。

グラフェンの電子たちはまるで量子の世界の水のように振る舞い、その粘度は下限に近いものです。

あえて言うなら、電子版の水飴が一瞬にしてサラサラの水に変わるような奇妙さかもしれません。

この発見により、長年未解明だった量子臨界点での電気伝導の限界値が実験的に収束を示したことで、従来は別々に考えられていた電気の流れと熱の流れを一体的に理解できる可能性が開けました。

グラフェンが見せたディラック流体という特殊な状態は、高エネルギー物理や宇宙物理の現象(例えばブラックホールの熱力学や量子もつれのエントロピーなど)を実験室で調べる新たな手段になるかもしれないと研究者たちは述べています。

また、このような低粘性電子流体を利用すれば、ごく微弱な電気信号や磁場を増幅・検出する量子センサーへの応用も期待できるでしょう。

物質の性質が通常と逆に進むような極限で何が起こるのか――それを解明することは、科学の既成概念を覆すだけでなく、「法則」とは何かという科学哲学的な問いさえ投げかけます。

電気と熱の関係という基本的性質が条件次第で正反対に振る舞う事実は、私たちの知る物理法則が絶対的なものではなく、極限状態ではむしろ逆転現象の中に新たな秩序=普遍性が潜んでいる可能性を示唆しているのです。

このグラフェンの研究成果は、物質世界の奥深くに潜む不思議と美しさを垣間見せてくれます。

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