海に溶け込んだ大量のCO₂をどうする?
大気中のCO₂は地球温暖化の象徴として語られますが、私たちが排出するCO₂の約4分の1は海によって吸収されています。
この「海洋のCO₂吸収能力」は非常に大きく、気象庁の推定では、1年あたり21億トン炭素(炭素の重さに換算した二酸化炭素の量)だと言われています。
さらに、産業革命以降、人間活動によって排出されたCO₂のうち、1700億トン炭素が海洋に吸収されたと考えられています。
一見すると「海がCO₂を吸収してくれるなら安心」と思うかもしれませんが、 実際にはこの“溶け込んだCO₂”が、海の生態系に深刻な影響をもたらしつつあります。
CO₂が増えすぎると海水が酸性に傾く「海洋酸性化」が進行します。
これは貝やサンゴなどの石灰質生物の殻や骨格が溶けやすくなり、食物連鎖や生物多様性にも悪影響を及ぼします。
こうした背景にあって、「海洋中の膨大なCO₂」を“邪魔者”として放置するのではなく、“資源”として循環利用できないか、と考えたのが今回の研究の出発点です。
研究チームが最初のステップとして開発したのは「Direct Ocean Capture(DOC)」、すなわち「海水から直接CO₂を取り出し資源化する」新しいシステムです。
これには、海水を特殊な電気化学反応槽(電気の力で化学反応を起こす装置)に通して、溶け込んだCO₂を「気体」として集めるという方法が使われています。
ここで重要なのは、海水のpHを元に戻してから自然に返すことで、海の化学バランスを崩さないようにしている点です。
この方法は、70%以上という高い回収効率を実現し、CO₂ 1kgあたりのエネルギー消費も約3kWhと比較的低く抑えられています。
また、1トンあたりの回収コストも約230ドルと経済的で、実験では536時間に及ぶ長時間連続運転も成功しています。