進化の謎に新しい光
この研究がもたらした最大の発見は、1億年前の海の覇者たちが、意外にもクジラ型の恒温動物ではなかったという事実です。
長年、「海の巨大爬虫類=高体温の恒温動物」とされてきた常識が、歯の中に眠っていたわずかな酸素原子の分析から覆されました。
これは古生物の進化や海の生態系の歴史を考えるうえで、非常に重要な一歩です。
たとえば、現代のクジラは一度陸上で進化した哺乳類が再び海に戻ったグループですが、その進化の過程で乾燥への適応(体の中の水分を逃がさない仕組み)を強化しています。
そのため体液中に「代謝水(食べ物を分解したときに体の中で作られる水分のこと)」が多く含まれるようになりました。
一方、今回調べられたモササウルスやプレシオサウルスは、こうした乾燥適応の仕組みをほとんど持たず、「水がすぐそばにある」環境での暮らしに特化していたと見られます。
つまり、彼らの祖先は陸地の奥深くで乾燥に耐え抜いたわけではなく、海や水辺を中心に進化してきたという新たな進化像が浮かび上がります。
このような体温や代謝水の分析は、今後さらに多くの古代生物の研究に応用されていくでしょう。
たとえば、恐竜の時代の生物がどのような環境で生き、どう進化してきたか、地球の大きな環境変化にどう適応したのか――そうした壮大な謎を解き明かす大きなヒントとなります。
また、過去の環境や生態系の復元にも大きなインパクトがあります。
歯や骨に刻まれた情報から、気温や海水温、陸地の乾燥度合いまでを読み解くことができるのです。