プラナリアの驚異の再生能力の秘密が明らかに――再生の司令塔を発見
プラナリアの驚異の再生能力の秘密が明らかに――再生の司令塔を発見 / 再生中のプラナリア/Credit:Canva
biology

プラナリアの驚異の再生能力の秘密が明らかに――再生の司令塔を発見

2025.10.24 19:00:22 Friday

アメリカのストーワーズ医学研究所(SIMR)で行われた研究により、驚異的な再生力で知られるプラナリアは、腸が離れた場所から幹細胞の位置や働きをコントロールすることで再生を行っている可能性が示されました。

これまで、幹細胞は周囲の細胞が直接接触して管理する仕組みによって制御されていると考えられてきましたが、今回の研究は、腸による幹細胞の遠隔操作が再生を促すという常識を覆す結果となっています。

一体どのような仕組みが、この「接触ゼロ設計」を可能にしているのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年10月15日に『Cell Reports』にて発表されました。

Molecular and cellular characterization of planarian stem cell microenvironments https://doi.org/10.1016/j.celrep.2025.116401

なぜプラナリアは自由自在に再生できるのか?

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世の中には、身体の一部を失っても、また完全に再生してしまう生き物が存在します。

代表的なのは、淡水に生息する小さな扁形動物「プラナリア」です。

この生き物の再生能力は桁外れで、なんと体のどこを切り落としても、失った部分を丸ごと再び作り出せてしまいます。

それどころか、体が粉々に近い小さな断片になったとしても、そこから完全な個体を再生することすら可能なのです。

19世紀の報告では、プラナリアを体のごく小さな断片(最小でおよそ全身の1/279)に分けても、それぞれが新しい個体として再生したとされています。

まさに信じられない話ですが、これは古くから知られる科学的事実でもあります。

もし人間も同じような力を持っていたら――そんな想像をすると、驚きを通り越してちょっと怖いほどですね。

しかし、なぜプラナリアだけがこれほど自在に再生できるのでしょうか?

その謎を解くカギとなるのが「幹細胞」です。

プラナリアの驚異の再生能力の秘密が明らかに――再生の司令塔を発見
プラナリアの驚異の再生能力の秘密が明らかに――再生の司令塔を発見 / Credit: Stowers Institute for Medical Research

幹細胞とは、体を構成するあらゆる種類の細胞に変身(分化)できる特殊な細胞のこと。

一般に、動物の幹細胞は体内の決まった場所に集まり、その場所にいる細胞から常に指示を受けて働いています。

この「幹細胞が周囲の細胞から指示を受ける仕組み」を専門用語では「幹細胞ニッチ(幹細胞の巣という意味)」と呼びます。

例えば、人間の血液は赤血球や白血球など、いくつもの種類の細胞からできていますが、これらをつくり出す「造血幹細胞」という特別な細胞があります。

この造血幹細胞は体のどこにでもいるわけではなく、「骨髄」という骨の内部にある特別な場所に集まっています。

なぜそんな場所にいるかというと、造血幹細胞は周囲の細胞たちから常に「もっと増えてください」とか「そろそろ赤血球や白血球に変化してください」というような具体的な指示を受けているからです。

つまり、造血幹細胞の周囲には幹細胞を管理している細胞がいて、自由に勝手な行動ができないよう、常に細かな指示を出しているのです。

このように幹細胞を取り巻いて厳しく管理している環境のことを、専門用語では「ニッチ(巣という意味)」と呼びます。

研究者の中には、このニッチのことを細かく部下の行動をチェックする「マイクロマネージャー(鬼上司)」にたとえて、幹細胞を過保護に管理していると表現する人もいます。

ところが、プラナリアの場合はそうした分かりやすい「ニッチ=鬼上司」という仕組みがうまく当てはまりません。

なぜなら、プラナリアの幹細胞は人間と違い、体の特定の場所にまとまっているわけではなく、まるで種をまいたように体の中の至るところに広く散らばっているからです。

散らばった幹細胞の周りにはいろいろな種類の細胞がいて、それぞれが幹細胞に影響を与える可能性があります。

そうなると、誰が本当の上司で、どの細胞が指示を出しているのかをはっきり特定することが非常に難しくなってしまいます。

にもかかわらず、プラナリアは体がいくら切断されても、いつも迷うことなくきれいに再生を成功させています。

一体どのようにして、プラナリアの幹細胞は迷わず的確に再生を行っているのでしょうか?

幹細胞は、上司役であるニッチがいなくても、自由に動き回って体を再生するということなのでしょうか?

それならば、プラナリアの幹細胞はどうやって無秩序に増殖することなく、きちんと再生を行えるのでしょうか?

こうした矛盾は、長い間、科学者を悩ませてきました。

そこで今回、研究チームはこの謎に正面から挑むことを決意したのです。

研究チームは、最新の解析技術を駆使してプラナリアの体内を徹底的に調べ上げ、幹細胞が働く舞台裏に何があるのかを明らかにしようと試みました。

果たしてプラナリアの驚異的な再生の秘密は、明らかになったのでしょうか?

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