遺伝子レベルで見えてきた「因果関係」
チームは「メンデルランダム化」という手法を用いました。
これは遺伝的変異を利用して因果関係を推定する方法です。
人には生まれつき味覚の好みに影響する遺伝的変異があります。
中には、塩をより好みやすい一塩基多型という遺伝マーカーを持つ人もいます。
研究者たちは、約50万人分の遺伝情報を含む「UK Biobank(英国バイオバンク)」のデータを利用し、塩の嗜好と関連する遺伝変異を特定しました。
そのうえで、これらの遺伝マーカーが、うつ症状や大うつ病性障害とどのように関連しているかを解析。
その結果、塩を多く好む遺伝的素因を持つ人は、抑うつ症状のリスクが約11%、大うつ病性障害のリスクが約28%高いことが示されました。
DNAは一生を通じて基本的に変わらないため、この解析は一時的な気分の影響を受けにくいという特徴があります。
つまり、生物学的なレベルで、塩分摂取とうつリスクが結びついている可能性があるのです。
では、なぜ塩が心に影響するのでしょうか。
研究者は、視床下部‐下垂体‐副腎軸と呼ばれるストレス応答系への影響を挙げています。
ナトリウムの過剰摂取は、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌を乱す可能性があります。
この系の機能異常は、うつ病患者でしばしば観察される特徴です。
また、高塩分食は炎症や酸化ストレスを促進し、感情調節に重要な海馬などの脳領域に影響を与える可能性も指摘されています。
さらに、悲観的思考とうつ症状が不健康な食行動を招き、それが再び気分を悪化させるという悪循環も考えられています。
塩ひと振りを見直すという選択
今回の研究は、食卓で塩を追加するというごく日常的な行為が、心の健康と関連している可能性を示しました。
もちろん、自己申告データであることや、正確な摂取量が測定されていないことなど、限界もあります。
しかし、遺伝データを用いた解析でも同様の傾向が確認された点は重要です。
もし、あなたが無意識に毎回塩をふっているなら、一度立ち止まってみる価値があるかもしれません。
味覚の満足度だけでなく、長期的な心の健康という視点からも、食卓の習慣を見直す時代が来ているのです。
小さな「ひとふり」が、心の健康に影響する可能性があるのです。






























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