クモ258種を走らせて「最速」を調べた
動物の速さは、単に「すばしっこい」という印象だけで決まるものではありません。
走る能力は、獲物を捕まえる、天敵から逃げる、移動する、繁殖相手を探すといった行動に深く関わっています。
そこで研究チームは、クモの走行速度を、現生するクモ139科のうち64科にまたがる258種から調査しました。
今回の研究では162種236個体の走行速度を測定し、既存研究から96種分のデータを加えました。
実験では、クモを格子紙の上に置き、上から高速度カメラで撮影しています。
格子紙は距離を測る目盛りになっており、クモが一定時間にどれだけ進んだかを計算することで速度を求めます。
クモが自発的に走らない場合は、筆や鉛筆の丸い端、圧縮空気などで軽く刺激し、逃避反応を引き出しました。
これは、実験室で本当の限界速度を引き出すのが難しいため、逃げるときの走りを「最大に近い性能」の代理として使うためです。
実験で測定した個体では3〜10回の試行が記録され、その中から最も速い走りが分析されました。
そして加速中ではなく、速度がほぼ一定になった区間を取り出し、移動距離を時間で割って「最大持続走行速度」を算出しました。
その結果、最も速かったのはオーストラリア・クイーンズランド州に生息するアシダカグモ属の一種(Heteropoda cervina / jugulans)でした。
記録された速度は秒速3.59メートルで、時速にすると約12.9キロメートルです。
全力疾走の人間を上回る速さではありませんが、一般的な走り、ジョギング程度では振り切れない水準だといえます。
なお、ギネス世界記録上の「最速のクモ」は、モロッコのフリックフラックスパイダー(Cebrennus rechenbergi)です。
このクモは捕食者から逃げる際に最大1.7m/sに達するとされていますが、その移動は脚で走るというより、回転を繰り返す独特の運動です。
つまり今回の研究は、側転のような特殊な移動ではなく、通常の走行としてクモの速さを比較したものであり、そこで最速のクモが判明したことになります。
では、なぜこのアシダカグモ属のクモはそれほど速く走れるのでしょうか。
速いクモの秘密は「大きさ」だけではなかった
研究チームがまず確認したのは、体の大きさと走行速度の関係です。
全体として見ると、クモは大きいほど速く走る傾向がありました。
実際、最も遅かった体重1ミリグラムの小型種Maso sundevalliは秒速0.018メートルだった一方、最速のアシダカグモ属の一種は体重3.01グラムで秒速3.59メートルを記録しています。
しかし、速さは体の大きさだけでは説明できませんでした。
たとえば、約200ミリグラムという似た体重の2種を比べると、最大走行速度に28倍もの差がありました。
つまり、クモの速さには「大きければ速い」という単純な法則を超えた要素が関わっているのです。
そこで浮かび上がった重要な要素が、脚の長さでした。
研究では、体サイズに対して脚が相対的に長いクモほど、予測より速く走る傾向がありました。
相対的な脚の長さが1標準偏差ぶん大きくなると、走行速度はおよそ30%高くなると推定されています。
また、暮らし方も速さに関係していました。
地表を走り回って獲物を追うクモは、体サイズから予測されるより速い傾向がありました。
これは、獲物を積極的に追う生活では、速く走れることが有利になりやすいためだと考えられます。
一方で、巣穴や管状の巣を作るクモ、待ち伏せ型のクモは、平均的には予測値に近いか、やや遅い傾向でした。
さらに、速さには系統ごとの偏りがあり、ある系統では体の大きさから予測されるより速く、別の系統では遅いという違いが見られました。
この研究から分かるのは、クモの速さがひとつの要因で決まるものではないということです。
そして、もし部屋の隅でクモが動き出したら――その“カサカサ”から逃げ切るのは、思っているより難しいということです。






















ギネスに記録を申請しなければいけませんね。
Golden wheel spider というのもいたけれどあの速さは測定されていないのかな。