記憶喪失とは、主に意識障害によって、過去のある時点の記憶を思い出すことができなくなる状態のことを指します。
記憶は、ざっくり分けると「言葉にできない手続き記憶」と「言葉にできる陳述記憶」に分類できます。手続き記憶は、自転車や自動車の操作など体で覚える記憶のこと。また、陳述記憶は体験や思い出などのエピソード記憶、言葉や数字の意味など知識の意味記憶のことです。
記憶喪失の種類
では、記憶喪失は何が原因で起こるのでしょうか?
最も多いのは、頭部の損傷や心理的な負荷、無酸素症、薬物乱用やアルツハイマーなどによるものです。これとは別に、電気ショック療法などのセラピーによって記憶障害が起きることもあります。
記憶喪失と一言でいっても、様々な原因、名称があるのです。
以下では代表的な記憶喪失の種類を紹介します。
逆行性健忘症
逆行性健忘症は、発症以前の出来事に関する記憶を思い出せないという障害です。
基本的に、新しい記憶を形成する脳の部位がダメージを受けることで発症します。また、精神的なトラウマやストレスによっても発症します。障害によって失われる期間は数日から数ヶ月、深刻な場合は自分が誰であるかさえ忘れています。
症状は一時的なものが多く、まれに一生に渡って記憶が戻らない場合もあります。
発症した人は古い記憶ほど覚えています。古い記憶は長い間脳に蓄積されているので思い出しやすいのです。
前向性健忘症
前向性健忘症は、発症以降の新しいことを記憶することができない障害です。
これは海馬がダメージを受けることで発症します。発症した時点より以前の記憶は思い出すことができますが、それ以降の記憶は全く蓄積されないというものです。しかし、何度も何度も繰り返すことで手続き記憶として覚えることができます。
不幸なことに、逆行性健忘と前向性健忘は同時に発症してしまうことがあります。
一過性健忘症
一過性健忘症は、経験した出来事における場所や方法、目的などを忘れてしまいます。
これは、記憶障害の中でも珍しい症例です。彼らは詳細な情報について記憶することが難しく、数日や数週間前、数年前のことを思い出すように尋ねたときに空白の期間があります。しかし、これは珍しく、一時的なものです。自分が誰であるかは分かり、その周囲の人々についても理解することができます。基本的に失われたエピソードが再び思い出されることはありません。
幼児期健忘
幼児期健忘は、4歳から5歳までの記憶が思い出せないという一般的に見受けられる記憶喪失です。
最近の理論では、言語発達と関係しているのではないかと言われています。言語を取得する以前ではどのような記憶も思い出すことが難しいと。しかし、これは歩くなどの手続き記憶には適応しません。
催眠後健忘症
催眠後健忘は、うとうとしている状態で示唆的な情報を得ることで催眠期間の記憶を思い出すことができないといった症状を指します。
解離性健忘
非常に珍しい精神疾患です。アイデンティティや人格など、個人の存在に関わる記憶を忘れてしまう記憶障害を指します。また可逆的な性質があり、新しい人格を獲得した場合に発症することもあるようです。
今回紹介した記憶障害がすべてというわけではありません。他にも、情報は覚えているけれども、ソース元は覚えていない記憶障害や、PTSDの一種とも言われる特定の記憶に対してのみ思い出すことができない記憶障害などがあります。
この場合は、必ずしも記憶を阻害している身体的な傷があるわけではありません。潜在意識で処置を行う代わりに、記憶を遮断しているのです。
それ自体が究極的な呪いになることもある記憶。いまだ謎が多く、興味深い分野です。