チョウの大移動の原因とは
では、なぜこれほど分布が変わっているのでしょうか。
原因について情報を得られた352種を調べると、そのうち278種、約79%で、気候変動や異常気象が分布変化と関連する要因として報告されていました。
ただし、これは「世界のチョウの79%が気候変動だけを原因として移動した」という意味ではありません。
この研究は世界各地の研究報告を統合したものであり、気候変動がそれぞれの種をどの程度動かしたのかを直接測定した研究ではないからです。
特に分布が縮小したケースでは、生息地の消失や農業開発、土地利用の変化、人間による攪乱、外来種など、気候以外の要因も関係していました。

さらに今回の研究で浮かび上がった重要な問題が、世界の「観測格差」です。
非英語文献や現地研究者の情報を取り入れることで、従来は十分に把握されていなかった熱帯地域からも多数の分布変化が見つかりました。
その一方、中央アフリカや東南アジア、ニューギニア、アマゾン流域などでは、今も長期的な観測データが不足しています。
つまり、そこで変化が起きていないのではなく、「起きていても私たちがまだ捉えられていない」可能性があるのです。
これはチョウを守る方法にも影響します。
気候が変われば、生物にとって適した場所も動いていきます。
現在いる場所だけを保護するのではなく、生物が将来移動できる経路や、暑さから逃れられる場所まで考えた保全が必要になります。
世界中から集められたチョウの記録が示したのは、気候変動による生物の移動が遠い未来の予測ではなく、すでに始まっている現象だということです。
ひらひらと飛ぶ小さなチョウの分布を追いかけることで、私たちはいま、地球の生態系そのものが書き換わっていく過程を目撃しているのかもしれません。































