■北緯45〜55度にある地域の広葉樹林帯でのみ「ヘアーアイス」という雪の結晶が見られる
■「ヘアーアイス」は、湿った枯れ木の上でしか作られず、さらに気温が氷点下に達している必要がある
■この現象に不可欠なのは、“Exidiopsis effusa”という菌類で、その菌糸体に沿って水分が凍結し結晶となる
肌をさすような冬の寒い朝。屋根から垂れ下がるつららや、窓にできた霜などを発見すると、より一層冬のおもむきが増します。
しかし世の中には、おもむきを感じる間もない奇妙な霜があります。
今年11月、アメリカのサウスカロライナにあるムスグローヴ・ミル・ステート・ヒストリック・サイトという公園で、絹のような形をした雪の結晶が発見されました。見つけたのは、公園の管理人をしているドーン・ウィーバー氏。
パークレンジャーである彼でさえ、発見当初は「ティッシュペーパーが散乱しているのかと思った」というくらい、珍しい現象なのです。
この正体はもちろんティッシュではなく、「ヘアーアイス(hair ice)」と呼ばれる現象。2015年のスイスとドイツの合同研究チームの調査では、北緯45〜55度の間に位置する地域の広葉樹林帯にでのみ見られると報告されています。ですから、北緯32度〜35度に位置するサウスカロライナで「ヘアーアイス」が見られたのは、きわめて珍しいことなのです。研究の詳細は、“Biogeosciences”上に掲載されています。
https://www.biogeosciences.net/12/4261/2015/
「ヘアーアイス」が作られる条件は、必ず水分が含まれた、湿った枯れ木の上であること。それから、氷点下を行き来するくらいの気温である必要があります。ウィーバー氏が「ヘアーアイス」を発見した日は、雨の降った翌日の朝で、気温はマイナス1℃〜0℃を行き来しており、この条件に合致していました。
それでは、この条件の正体は何なのでしょうか?
「ヘアーアイス」現象に不可欠なのが、“Exidiopsis effusa”と呼ばれるヒメキクラゲ科の菌類の働きです。“Exidiopsis effusa”は、冬時期にのみ活動する菌類で、研究チームが「ヘアーアイス」のサンプルを採取し分析したところ、そのすべてにこの菌類が含まれていたのです。
「ヘアーアイス」が作られるには、まず菌類が湿った枯れ木の上で活性化していることが必要だといいます。枯れ木上に、密度のきめ細かい菌糸体の膜が張られ、氷点下の温度により水分が菌糸体の形に沿って凍ることで絹のような美しい結晶が出来上がるのです。
しかし、この美しい「ヘアーアイス」現象はいつまでも見られるものではありません。夜の間に作られた雪の結晶は、太陽がのぼり始めるのと同時に再び溶けて消えてしまうのです。儚いものこそ、美しさは増すのでしょうね。
reference: atlasobscura / written by くらのすけ