単純な診断方法がきかなくなる
この結果は、単に自殺願望があるかどうかだけで精神ケアの方法を決めることは、もはやできないことを示唆しています。本人が自殺願望を示すか示さないかに関係なく、心の不調を抱えた人すべてに、その人の立場に立った質の高いケアを提供することが重要です。
ラージ氏は、患者が自殺願望を吐露しないからといって、自殺の危険性が低いと短絡的に判断するべきではないと語っています。「死にたい」という気持ちに取り憑かれる「自殺念慮」の有無は、短期間での自殺リスクを測るスクリーニングテストの一部としてこれまで用いられてきましたが、これは必ずしも有効な手段とは限りません。
中には、恥ずかしさや止められたくないという気持ちから、自殺願望を医師から隠す人もいるでしょう。自殺したいという心情は急速に変動しやすく、自殺願望が芽生えて時を置かず衝動的に自殺を図るケースも。患者本人の苦しみに寄り添い、たとえ彼らが自殺願望を示さなかったとしてもケアを確実に継続することが重要だと、ラージ氏は語っています。
「死にたい」と思っていても実際には自殺せず、「死にたい」と思っていなくても衝動的に自殺してしまう…。人間の心とは、実に不確かで捕らえ所が無いものです。
また、近しい人が自ら命を絶った時、「その気持ちになぜもっと早く気づいてあげられなかったのだろう」と悔やむ人たちへ向けて、ラージ氏は次のようなメッセージを送っています。
「本人が自殺願望を持っていたとしても、実際に自殺を図る危険性は低かったのです。また、もし本人が自殺願望を持っていることに周囲が気づかなかったとしても、それは彼らの過ちではありません」