■古代生物”Amiskwia sagittiformis”が顎を持っていることが判明
■化石を塩化アンモニウムでコーティングする新技術により、内部構造がはっきりと映し出された
■身体が毛顎動物に、顎が有顎動物に似ていることから、毛顎動物と有顎動物が近い親戚関係にある可能性が浮上
身体は毛顎動物、しかし頭は違う生物…?
およそ5億500万年前の地球に生きていたある不可解な小さな生物の正体が、明らかになってきました。
研究者たちは100年以上もの間、古代生物”Amiskwia sagittiformis”の分類に苦労してきました。この生物が、異なる系統に属する部位から成る「パッチワーク」のような生物だからです。
最近の研究でこの生物が一組の顎を隠し持っていたことが判明したことによって、「この生物が系統樹のどこに属しているか?」という謎を解決する糸口が見つかりそうです。ある研究チームによる論文が、雑誌「Current Biology」に掲載されました。
https://www.cell.com/current-biology/pdf/S0960-9822(19)30081-8.pdf
Amiskwia sagittiformisは、平らに引き伸ばされたような、体長5センチメートルにも満たない柔らかい身体をしています。丸みを帯びた頭部から2本の触覚が伸びており、側面には翼、お尻にはパドルのような尻尾があります。”Amiskwia”は、北米のクリー族の言葉で「ビーバーの尻尾」、”Sagittiformis”はラテン語で「矢の形」を意味しています。
Amiskwia sagittiformisは、毛顎動物といくつかの類似点があるものの、毛顎動物の頭部付近にある獲物捕獲用の棘は持っていません。また、ヒモムシとも共通点がありますが、ヒモムシの仲間に共通する他の特性のいくつかを欠いています。
このどっちつかずの生物をどの系統に分類すべきかについて、研究者たちはこれまで頭を抱えてきました。毛顎動物なのか、ヒモムシなのか、はたまたまったく別の系統なのか…。太古の昔に絶滅した生物を正確に分類するのは、大変な作業です。
そこで研究チームは、Amiskwia sagittiformisの化石調査の際に、ある新技術を用いることに。それは、化石を塩化アンモニウムでコーティングするというものです。塩化アンモニウムにより内部構造がはっきりと映し出されたおかげで、Amiskwia sagittiformisの頭部に、頑丈なパーツからなる顎のような構造物があることが分かりました。Amiskwia sagittiformisがこの顎を使って、動物プランクトンや小さな甲殻類を飲み込んでいたと推測されます。
こうした顎を持つことで知られているのは、有顎動物です。Amiskwia sagittiformisの身体が毛顎動物に、顎が有顎動物に似ていることから、研究者チームは、毛顎動物と有顎動物はこれまで考えられてきた以上に近い親戚関係にあるのではないかと示唆しています。実際、毛顎動物の特徴である獲物を掴む毛は、Amiskwia sagittiformisの顎が進化してできたものかもしれません。
約4億900年前〜5億4300万年前のカンブリア紀は、驚くべき速さで動物の多様化が進んだ時代でした。その結果、Amiskwia sagittiformisを含む奇妙な見た目の生物が無数に繁栄しました。キッチン用たわしのようなルックスの目を持たない多毛類や、うじゃうじゃとたくさんの手足が生えた葉足動物、手足ばかりか背中にも無数の棘が生えたハルキゲニアなど…。古代生物の特性は、現在身の回りにいる小さな虫たちの中にも見出すことができます。
Amiskwia sagittiformisの新たな特性の発見により、異なる系統同士の繋がりが見えてきたことは面白いですね。太古の海に生きた「愉快な仲間たち」の多様性の裏には、見えない糸でつながった親戚関係があります。