Point
■NTTが、座った状態のまま歩いている感覚を作り出すことに成功したと発表
■実際の歩行時に生じる足裏への「振動刺激」と同じものを与えることで、歩行感覚を再現することに成功した
■さらにVR技術と組み合わせることで、歩行時に起きる空間的な変化も再現することができた
これから人類は「立たずに歩く」時代に突入するかもしれない。
NTT(日本電信電話株式会社)は5月30日、座った状態のまま歩いている感覚を作り出すことのできる技術の開発に成功したと発表した。
実際の歩行時に生じる振動刺激を、足裏に与えることで「歩いている感覚」をもたらすことが可能になるという。
そして本技術とVRを組み合わせることで、自室にいながらの旅行体験や、遠隔地にいる人とのリアルな散歩の実現などが期待されている。
主観的な空間も変化
足裏は地面の情報を受け取る接触面であり、そこから地面の状態や質感の知覚を行うことができる。
これをヒントに研究チームは「足裏に適切な振動刺激を与えることで、実際に近い歩行感覚を疑似体験することができるのではないか」と考えた。
手順としては、実際の歩行時に生じる「振動(歩行音)」を記録して、特殊な処理によりそれを「振動刺激」に置き換える。この刺激は、現実の歩行に伴う振動や歩行周期、歩くタイミングなどに一致するようになっている。
これを座っている人の足裏に与えると同時に、VR技術によって歩行時の視覚・聴覚の情報も一緒に加えている。すると体験者は実際の歩行にかなり近い感覚が得られたと報告したという。
さらに「歩行感が起きていない状態」と「歩行感が起きている状態」とを比較したところ、後者では体験者の「身体近傍感覚」が前方に伸び広がっているような反応が確認されたそうだ。
「身体近傍感覚」とは、身体周辺を取り囲む近距離空間のことで、この範囲内で他者との物理的・心理的なやり取りが行われる。
つまりこのスペースが主観的に前に広がっているということは、実際に歩いているときの感覚と非常に近いことを意味しているのだ。
今回の技術を発展させれば、4D映画館やVRアミューズメント施設などでの応用が可能となる。さらに研究チームは今後、歩行感覚だけでなく「走る感覚」「スキップ感」など表現バリエーションを増やしていくことを目的にしているそうだ。
VRの弱点である「移動できない」を克服できれば、その臨場感は格段に上がるだろう。「フルダイブ」の実現も夢ではなさそうだ。