Point
■メリーランド大学が、マラリアを媒介する蚊を効果的に殺傷することのできる菌を開発
■クモから猛毒を抽出し、それを菌と遺伝子的に掛け合わせることで高い殺傷能力を実現させることに成功
■一方で、菌が野生に解き放たれた場合、生態系や人体へ被害をもたらす危険性もあるという
マラリアを食い止めるのは、どうやら遺伝子改造されたスパイダー菌のようだ。
マラリアは嘔吐や高熱、悪化すれば死に至る可能性もある危険な感染症だ。世界では毎年2億人がマラリアに感染しており、その内40万人以上が亡くなっている。
このマラリアを媒介するのが「ハマダラカ(Anopheles)」と呼ばれる蚊である。基本的に日本土着のマラリアはないが、ハマダラカは国内にも存在する。
アメリカ・メリーランド大学は、このハマダラカを死滅させることのできる新たな方法を開発したという。それは、クモから抽出した猛毒を菌に遺伝子的に組み合わせるというものだ。
実証試験では、ある施設内のハマダラカを45日間でほぼゼロにまで死滅させることができたそうだ。
研究の詳細は、5月31日付けで「Science」上に掲載されている。
https://science.sciencemag.org/content/364/6443/894
毒グモと菌を掛け合わせる
研究チームが最初に開発した菌では、確かに蚊を死滅させることができたが、即効性に欠けていたことが問題として挙げられた。つまり死滅する前にマラリアを人に感染させる時間が十分にあったのだ。
そこでチームは菌の殺傷能力を高めるため、オーストラリアに生息する「ファネルウェブ・スパイダー」というクモの猛毒を抽出して菌と遺伝子的に掛け合わせた。
これにより菌の即効性が格段にアップしたのだ。
この菌を使い、西アフリカ・ブルキナファソにある「モスキート・スフィア(現地の村を模した施設)」にて実証試験を行なった。ブルキナファソはマラリアが土着する場所として知られており、施設内には現地に生息する蚊を収容している。
方法は菌を付着させたシートを施設内の壁に引っ掛けておくだけだ。すると45日間で施設内にいた蚊の大半を死滅させることに成功した。同チームのブライアン・ラベット氏によると、菌の即効性だけでなく殺虫剤に耐性のある蚊も効果的に死滅させることができたという。
今回の実験成功の一方で、この方法に対する危険性も懸念されている。
というのもこれほど強力な殺傷能力を持っている菌を野生の中に離せば、花粉を媒介するハチなども誤って死滅させてしまい生態系のバランスを崩壊させてしまう恐れがある。さらには菌を扱う現地住民の健康にも被害が出るかもしれない。
今後チームはこうした副作用に関する問題を解決していく予定とのこと。ミイラ取りがミイラになるのはどうしても避けたいところだ。