Point
■光を99.996%以上吸収するカーボンナノチューブが開発され、イエローダイヤモンドの表面をコーティングする実演が行われた
■この新素材は、アルミホイルの表面上でカーボンナノチューブが形成されるプロセスの研究中に偶然作られた
■この新素材は、世界一黒いとされてきたベンタブラックを含む他の素材と比較してもずっと黒い
ニューヨーク証券取引所で、芸術家と科学者のチームが、「16.78カラットのダイヤモンド(2.1億円相当)を消す」という前代未聞のパフォーマンスを行いました。
「なぜそんな場所で、そんなことを…?」という疑問が浮かびますが、確かに証券取引所は「大金の損失」と無関係な場所ではありません。ですが、今回の取引はもっと奥が深いものでした。
芸術家のディエムト・ストレーべ氏とマサチューセッツ工科大学の研究チームが披露したのは、塗布した物体に照射する光をほぼ100%吸収し、真っ黒な状態に変える新発明のカーボンナノチューブ。その素材でイエローダイヤモンドの表面をコーティングすると、その輝きが完全に見えなくなるというマジックでした。
論文は、雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」に掲載されています。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsami.9b08290
びっしり生えたナノチューブの「森」に絡め取られる光子
今回発見されたナノチューブ構造は、これまで開発された黒い色素の10倍は黒く、それに触れる光を99.996%以上吸収します。
研究チームは、アルミホイルなどの表面上でカーボンナノチューブ(炭素原子が網目のように結びついて筒状になったもの)が形成されるプロセスの改善を試みていた最中に、偶然この新素材を開発しました。
アルミホイルの欠点は、空気に触れる度に酸化物の層が形成され、ナノチューブとホイルの間に邪魔な化学物質のバリアができることです。これらの酸化物を除去するため、研究チームはホイルを塩水に漬け、酸素に邪魔されずにナノチューブを形成できる小型オーブンの中へ入れました。
すると、絡まり合ったナノチューブが毛のようにホイル表面にびっしりと生い茂り、それに絡め取られた光子が行き場を失い、ホイル表面から脱出できなくなったのです。
こうして、ホイルは真っ黒な状態に変化しました。あまりにも黒すぎて、ホイル表面の凸凹さえまったく見えないほどでした。