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【ノーベル化学賞】鉄球を落として安全性を実証!? リチウムイオン電池が実用化されるまで (2/3)

2019.10.10 Thursday

前ページ何がすごいの? リチウムイオン二次電池

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3人の受賞者たち

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油中で保管されるリチウム。/Credit:Tomihahndorf/German Wikipedia Commons

リチウムは銀白色の金属で、水素、ヘリウムに次いで軽い元素です。ビッグバンの数分後には生成されていて、今でも宇宙線が星間ガスに衝突したとき生成されています。

そのためリチウムは宇宙ではありふれた物質です。しかし、純粋なリチウムは非常に反応性が高く危険な物質でもあります。

リチウムはナトリウムと同じアルカリ金属元素です。ナトリウムは水をかけるだけで爆発する危険物として有名ですが、リチウムも似た性質を持っていて水を掛けるだけで発熱して反応します。空気中の水分とも反応してしまうので、基本的にリチウムは油中に浸して保管します。

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リチウム片に水をかけた反応。Credit:hoyuscience/【化学実験】アルカリ金属と水の反応!取り扱い注意!危険!?

今回の受賞者の1人、Stanley Whittingham氏はリチウムの弱点とも言える反応性の高さに着目し、世界で最初のリチウム電池を開発しました

リチウムの様なアルカリ金属は最外殻に電子を1つしか持たず、他の原子へ移動しようとする強い力を持っています。この作用から正電荷を持った安定したリチウムイオンを生成し、電池に利用したのがLIBです。

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1970年初頭にWhittingham氏は、強いリチウムの電子放出の性質を利用して電池を作った。陰極側に純粋なリチウム金属を利用している。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

97歳の最高齢受章者となったテキサス大学オースティン校のGoodenough氏は、1980年に陽極側をコバルト酸リチウムに交換することで、LIBのエネルギーポテンシャルを倍増させ、より長寿命の安定した電池にする改良に成功しました

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1980年、Goodenough氏は陽極を酸化コバルトに変え、利用できる電圧を増強させた。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

しかし、LIBには大きな問題が残っていました。それはリチウムの反応性の高さによる発熱・発火の危険性を取り去ることができないということでした。

LIBの爆発する危険性には、Goodenough氏も頭を悩ませたといいます。

このLIBの危険性を解消し、実用化への目処を付けたのが、旭化成の名誉フェロー吉野彰氏です。

吉野氏は、危険性の高い純粋なリチウム金属の利用を除去し、陰極側に特殊な炭素を使い、陽極側にコバルト酸リチウムを使用しました。これにより、軽量化可能な上に、発熱の危険性が低い実用的なリチウムイオン電池の開発に成功したのです。

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吉野氏は純粋なリチウムを除去し、陰極に炭素を使うことで発熱の危険が少ない電池を開発した。/© Johan Jarnestad/The Royal Swedish Academy of Sciences

この研究では、吉野氏はこの改良されたリチウムイオン電池が爆発しないことを示すために、電池に鉄球を落として安全性の実証をしました。

下の画像はドイツ化学会の学術雑誌「Angewandte Chemie(アンゲヴァンテ・ケミー)」に掲載された氏の論文の実験画像です。かなり過激な実験で安全性をアピールしています。

Copyright©2012 WILEY‐VCH Verlag GmbH&Co.KGaA、Weinheim/ Akira Yoshino

こうして、現在広く使われる重要技術、リチウムイオン二次電池の道筋が立ち、私達はスマホにワイヤレスイヤフォン、薄くて軽いノートPCなどが利用できるようになったのです。

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