- 火星では10年に1度のペースで惑星を包むほどの巨大な砂嵐が発生する
- この大規模な砂嵐では、火星大気が高密度に集中し上層まで至るダストタワーが多数生じている
- ダストタワーは火星の水が宇宙へと逃げ出す原因になっている可能性が高い
火星では頻繁に砂嵐が起こっています。特に10年ごとに発生する大規模な砂嵐は、惑星全体を包み込んでしまうほどです。
2018年にもこの大規模な砂嵐が発生して、火星の地上で調査を行っていた探査機が太陽光からの発電ができなくなり、活動を休止させる事態も発生していました。
火星の大規模な砂嵐では、ダストタワーと呼ばれる地表から上空70〜90キロメートルにまで及ぶ巨大な雲が大量に長期間発生します。
砂嵐を分析した最新の研究では、このダストタワーに着目しており、この現象が火星から水が失われた理由を説明するかもしれないと報告しています。
このダストタワー現象にスポットを当てた研究は、ハンプトン大学Nicholas Heavens氏を筆頭著者として、地球物理学分野で最も権威ある科学雑誌の1つ『Journal of Geophysical Research:Planets』に11月11日付けで掲載されています。
https://doi.org/10.1029/2019JE006110
大規模砂嵐とダストタワー
ダストタワーは、通常の火星大気に比べで高密度の高く立ち昇る特殊な雲です。これは火星大気中の塵が熱を持つことで起こる上昇気流で、年間を通じで何度も発生しています。
通常、このダストタワーは1日程度しか持続せず、すぐに崩壊してしまいます。しかし、大規模な砂嵐が起こっている最中は、非常に大量に発生する上、数週間も継続してダストタワーが発生していることを研究者たちは発見したのです。
これは、火星の物質を上空へ巻き上げる「スペースエレベータ」として機能し、大気を大きく移動させています。火星に見られる微かな雲を作る水分子も、この塵に閉じ込められてはるか上空へと運ばれてしまうと考えられています。
ダストタワーは地表から70〜90キロメートルの上空まで達します。これは東京や神奈川県の東西間に匹敵する距離です。
火星では、これだけ上層に来ると水分子(H2O)が太陽放射によって水素(H)とヒドロキシルラジカル(OH)に分解されてしまいます。
これまでの観測から、火星上層では水素が宇宙空間へ流出していることが確認されています。これは火星が何十億年も掛けて水を失った原因であると考えられます。
ダストタワーは、火星が水を失い荒野となってしまったメカニズムを説明するための、1つの要因であると考えられるのです。
現在こうした火星の惑星規模で起きる砂嵐は、10件程度しか確認されていません。そのため、現状ではデータが少なすぎるため確実なことを言うことはできないと研究者たちは語っています。
火星の周回軌道から観察する探査衛星MROが、火星の大気変動を記録し続けています。大規模の砂嵐は、地球で積乱雲のような嵐が惑星規模で数カ月間続くような極端な気象現象です。
その発生原因や、火星への影響、水を失った正確なメカニズムは、こうしたデータの蓄積によっていずれ明らかにしていけるだろうと研究チームは語っています。
地球以外の惑星は、大体極端な気象現象が起こっている印象があります。こうした巨大な嵐がなぜ起こるのか、興味が尽きません。