地滑り津波の脅威
2018年のアナク・クラカタウ島の火山噴火による津波は、人が住んでいる島の沿岸で確認された限りでは10メートル程度だったと記録されています。
しかし、ロンドン・ブルネル大学や東京大学の研究者はそれがこの津波の見せたほんの一部の被害に過ぎないことを報告しているのです。
彼らが今回の津波を解析しモデル化した結果、津波のピーク時の高さは100から150メートルに達していたというのです。
この高さはちょうど東京タワー展望台のある高さや、京都タワーの高さと同じくらいです。
津波は陸地に乗り上げるときもっとも高くなると言われています。東日本大震災では、この遡上高が40メートルだったと言われていますが、インドネシアの津波では陸地に当たった時点での高さが80メートルに達していたと言います。
これは重力の影響や摩擦によりある程度縮小した状態で、陸地に乗り上げこの高さだったのです。
「幸い、この津波がぶつかった島には誰も住んでいませんでした」とブルネイ大学の研究者Mohammad氏は話しています。
しかし、もしこの火山の5キロメートル圏内に人の住む海岸があった場合、50から70メートル近い津波に襲われていたでしょう。
今回のシミュレーションは、現実と状況を一致させるために、実際にインドネシア政府が計測した波浪計のデータが使用されました。
実際のデータを使用したシミュレーションは非常に重要な検証です。
これまでのモデルでは、波にはいくつかのピークがあると考えられていました。しかし、今回のシミュレーションでは、初期波がほぼ純粋な巨大な波のこぶを作り、仰角に広がって形成されたことを示しています。
これは高さが100メートル以上となり、波の長さ(波長)は2.5キロメートルもあったと考えられます。
これは地滑りの津波が、いかに強力なものになるかを示す最初の証拠になるといいます。
こうした種類の津波は、発生報告が少なく研究はあまり進んでいません。ほとんどの場合津波は非常に弱く、数センチ程度にしかなりません。
日本では地震の被害が記憶に新しいですが、その場合でも10〜20メートルという高さです。しかし、地滑りはこれより遥かに巨大な津波を発生させる可能性があるのです。
ほんの数年前にグリーンランドで起きた大規模な地滑りでも100メートルの高さを持つ津波が引き起こされたと言われており、発生源から遠く離れた漁村でも4人の死者が出ました。
現在こうした津波のピークが、人口の多い地域にぶつかった記録はありません。しかし、これは単に運の問題だろうといいます。
インドネシアだけでも130近い火山があり、多くは海の近くにあります。日本も火山と地震の多い国で海洋国です。こうした特殊な津波に対する研究と理解が、まだ見ぬ大災害の被害を最小限に食い止めるために重要になるかもしれません。