- 星の数が10億程度の矮小銀河は、銀河核となる大質量ブラックホールが中心部に見つからない場合があった
- そのため、矮小銀河では大質量ブラックホールを持たない場合があると考えられていた
- 新しい研究は、矮小銀河の外縁でさまよう大質量ブラックホールを発見し、この通説を否定している
少し前まで存在自体が疑われていたブラックホールですが、現在は観測技術の向上とともにその姿を撮影することにも成功し、数多くの大質量ブラックホールが発見されています。
ブラックホールの発見において特に重要なのが、太陽の数百万〜数十億倍という極端に巨大なブラックホールは、基本的に銀河の中心にあるということがわかったことです。
どこにあるかがわかれば、探すのもぐっと簡単になります。
私達の属する天の川銀河にも、この超大質量ブラックホールが銀河核として存在しています。これは射手座A*としてよく知られています。
しかし、もっとずっと小さい矮小銀河では、中心部を観測しても大質量ブラックホールが見つからない場合がありました。このため矮小銀河はブラックホールを持たない場合がある、と考えられていました。
ところが新しい研究は、矮小銀河の中心ではなく、全体を捜索した結果、外縁をさまよっている大質量ブラックホールを発見したと報告しているのです。
これは既存の理論からは予想外の発見であり、今後のブラックホール探索について捜索範囲を拡大させる必要を示すものです。
この研究論文は、米国モンタナ州立大学(MSU)のeXtreme Gravity Institute(XGI)の研究者Amy E. Reines氏を筆頭著者とした研究チームより発表され、天文学に関する科学雑誌『The Astrophysical Journal』に1月3日付けで掲載されています。
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/ab4999
矮小銀河のブラックホール
矮小銀河は、10億個以下の星しか持たない小さい銀河のことです。
天の川銀河は1000億〜4000億個という大量の星を持つ渦巻銀河で、こうした大きな銀河は中心に大質量ブラックホールを核として持っていて、現在も星の形成が行われています。
一方、矮小銀河はあまりに小さく、球状星団と呼ばれる単なる星の集まりと見分けの付かないレベルのものもあるため、基本的に大きな銀河のようにブラックホールの核は持っていないと考えられていました。
そんな中、今回の研究者Reines氏は、矮小銀河を研究する中で、2011年に「Heinze 2–10」という矮小銀河から、巨大なブラックホールを発見したのです。
矮小銀河が超大質量ブラックホールを持っていたというこの発見は、天文学者たちに衝撃を与えました。そして、矮小銀河のブラックホール探索が本格的に始まったのです。
Reines氏は地球から10億光年以内の111の矮小銀河を探索しました。そして、13の銀河からほぼ確実に大質量ブラックホールと特定できる証拠を発見したのです。
それらは驚いたことに、銀河の中心以外の場所からも発見されました。中には銀河のかなり外縁の部分をさまよっているブラックホールまであったのです。
この発見は、これまでの大質量ブラックホールは銀河の中心にあるという固定観念を打ち砕きました。
この事実は、米国ニューヨークのクイーンズボロ・コミュニティ・カレッジの准教授Jillian Bellovary氏の行ったコンピューターシミュレーションの結果からも裏付けられています。
シミュレーションによると、銀河が宇宙を移動するとき、他の天体との相互作用によってブラックホールが移動する可能性があり、矮小銀河の大質量ブラックホールは約半数が銀河の周辺をさまようことになると予想されているのです。これは今回の発見と一致していました。
矮小銀河の研究はまだ新しい分野のため、こうした新しい発見をする機会はたくさんあるといいます。
今回の発見は、宇宙で巨大ブラックホールが形成されるためのメカニズムを理解するために、矮小銀河の中心を超えてブラックホールの検索を広げなければならないことを教えています。
そして、初期の宇宙に見られた矮小銀河など小さい銀河の合併が、より巨大なブラックホールを生み出していくメカニズムに寄与していた可能性を示したのです。
これは固定観念にとらわれず挑戦することが、新しい発見につながるのだという好例と言えるでしょう。