- フィリピン沖の海底に、大気中の200倍の濃度の炭酸ガスが湧出している場所が発見される
- 二酸化炭素濃度が高いにも関わらず、同地の生態系は、世界の海で最も繁栄している場所の一つとして知られる
テキサス大学オースティン校は、今月3日、フィリピン沖の海底に、大量の炭酸ガスが湧出している場所を新たに発見したと発表しました。
場所は、フィリピンのルソン島とミンドロ島の間に位置する「ベルデ島水路」で、ここは、世界で最も豊かな生態系の一つです。サンゴ礁帯が広く繁栄しており、海洋生物も多種多様に存在します。
その一方、湧出する泡が高濃度の二酸化炭素であることから、同地のサンゴ礁や生物は、これまでにない環境への適応能力を身につけているかもしれません。
研究の詳細は、1月3日付けで「Geophysical Research Letters」に掲載されています。
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1029/2019GL085730
CO2濃度は大気中の200倍⁈
泡の湧出は、同大学のダイバーチームが同地の生態系を調査している際に発見されました。
調査の結果、湧出地は海面下60mの場所に位置しており、近くの火山が原因となっていました。火山活動により生じた炭酸ガスが、海底のひび割れから湧き出ていたのです。炭酸ガスの湧出は、最近始まったことではなく、数千年前から続いているものと予測されています。
さらに、二酸化炭素の湧出量は、これまで自然界で観測された中で最も多いと言われます。測定では、6万〜9万5000ppmに達しており、これは、大気中に確認される二酸化炭素濃度平均の200倍に匹敵する量です。
湧出した炭酸ガスは、海水に溶けて希釈されるにつれ、濃度も一気に落ちますが、それでも他の海中の平均よりはずっと高い数値を維持しています。
そして、一番の疑問は「なぜ二酸化炭素濃度が高いのに、サンゴ礁や海洋生物が繁殖しているのか」ということです。
酸素は、海洋生物にとっても重要な成分であり、酸素濃度が低下すると、酸欠に陥ったり、失明の危機に晒されることが先行研究で明らかになっています。そのため、ベルデ島水路の生態系が非常に繁栄していることは大変不思議なことなのです。
研究主任のバヤニ・カルデナ教授は「この地のサンゴ礁や生物は、環境適応能力に関する一般的な常識とは異なる形に進化している可能性がある」と推測します。
同地の生態系には、地球温暖化に対抗するための生体の秘密が隠されているのもしれません。